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その日の夕方、俺は全員を呼び集めた。
誰もが覚悟を決めた顔つきをしている。
何となく何を言われるのか察しがついているのだろう。
一部は聞きたくない素振りをしていたが、それでも聞かなきゃいけないとわかっているのかちゃんと集まってくれた。
「桜姫、決めたんだな?」
いつもはケラケラ笑っている晃が真面目な雰囲気で口を開く。
この中での進行役は晃が適任だろう。
何だかんだ皆をまとめてくれていた存在だしな。
「ああ。俺は明日この世界から去る」
俺の言葉と共に全員が暗い顔をする。
……何だかんだ俺は皆に愛されていたんだなって今になって思う。
散々迷惑かけてきたから愛想尽かされてるんじゃないかと思ってたくらいだ。
「世界を去るって言ってもまたいつか顔を出せる日は来る。それが何時になるのか全くわからないが…」
「世界の管理は大変だって管理神達がよく言っていたわね…。数多存在する生物の均衡、人類種による技術の進行具合、天気諸々ね」
そしてサフィルが補足説明してくれる。
実際、俺は人類種の存在する世界を創らなきゃいけない。
人類種が存在するだけで生物の均衡の調節難易度が何倍にも跳ね上がるらしく、モゲッソが遠い目をしながら事細かく説明してくれた。
生半可な調節をすると人類種は簡単に死滅してしまうらしい。
慣れてしまえば楽だとハルティアは言っていたが、その慣れる日がいつになるのかはその神次第だろう。
今じゃ片手間で調節してるわ〜、とハルティアがケラケラ笑っていたが俺にそんな日がいつ訪れるようになるのだろうか。全くわからん。
「お前らを向こう側に連れて行きたいのは勿論なんだが、如何せんそもそも世界がまだ無いし生きてく上での世界の整備もしなくちゃいけない。だから暫くは俺が一人で世界の調整をしなくちゃいけないんだ」
「私たち神様も桜姫君を手伝えたらいいんだけどね…そんな力はもう無くてね…」
フレイヤのカノンが申し訳なさそうにしている。
サフィル、カノン、ヘラの三神は確かに神様なのだが、実際は名も無き神によって無理矢理神格化した神なので必要な力が一部無かったりするらしい。
なんなら名も無き神が消失した事によって力がかなり弱体化している。
しかも俺と同様に神の座があるから何とか存在できているような状態だ。
「いつか、いつか必ず迎えに行くからそれまで待っていてくれないだろうか…頼む…」
俺は頭を深く下げる。
土下座をしたい所だが、それをすると誰かに踏まれそうな予感がしたのでやめた。
主に晃に。この親友ならやりかねん。
「また悠久の時を過ごせって言うの?」
ハルッタが呆れた声を出す。
ハル自身、ここまで生きていて疲れてしまっているのだと思う。
俺の我儘に振り回されっぱなしだ。
「……ああ。皆が望むならその生涯を終わらせる事だってできる」
「結局、オウキの口から答えを貰っていないのだけど」
「………」
俺に答えは出せない。
何を言っても俺の語り口から答えは出ない。
「桜姫、今答えを出さなきゃいけないみたいだぜ?」
いい加減逃げずに諦めろよ、親友。と言いたげに晃は言う。
「お前が今何も無い事は聞いた。でも、それでもお前は答えくちゃいけない。お前の為にもな」
「お、俺は…」
俺は…どうしたいんだ?
今までなら答えを出せたのに、今は答えが本当に出せない。
「俺は…っ!」
息ができない。
頭が痛い。
視界が暗くなっていく。
何も見え無い。聞こえ無い。
「桜姫!!」
そんな時、誰かの呼び声が聞こえた。
誰だろうか?視界が戻る頃には誰しもが俺を見つめていた。
「ほら、お前を呼ぶ声は聞こえるだろ?」
「ああ…」
「その声がお前にはどう思う?」
俺は…俺には…。
「…頼む、俺を…俺の名前をいつまでも呼んでくれ…」
俺の名前を呼んでいて欲しい。
「それがオウキの答え?」
「ああ…。俺も、お前らの名前を呼び続けるから…」
この呼び声がどうしようもなく心地いい。
俺が俺として存在しているのだと唯一わかるから。それがとても安心する。
「随分と斬新なプロポーズですね」
「男女問わず言ってんのが厄介だな」
クスクスとナギサが笑い、迅が呆れるように首を振る。
「いいんじゃない?今の桜姫君にはそれが精一杯の言葉なんだろうし」
「だなw俺だったら多分なんも言えねえw」
「勇吾は何も言えない時、必ず僕に助けを求めてくるよね」
「その度に見てないフリはやめてくれません?w」
「その点、桜姫君はちゃんと自分の言葉を出したんだし偉いと思うよ?」
颯斗と勇吾がいつもの様に漫才を挟みながら喋る。
そんな場面は全く語られていないが、こうやって重い場の空気を和らげたりしてくれるのでこの二人の存在にはとても助かっている。
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