物語は語り続けられる

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俺がこれ以上の言葉が出せない事を知っているからなのか、全員生暖かい目で見てくる。 「な、なんだよ…」 そんな生暖かい目で見られると背中が痒くなるだろ。 内心逃げてしまいたいくらいだ。 「やっぱオウキはオウキだなって思ってるだけだと思うよ」 やれやれ、と言いたげなマスター…ルナ·フィーリムがテーブルの上に置いてあるクッキーを一枚食べながら言う。 マスターは無魔と戦い続けていた俺を世界樹から一時的に取り出す為だけに生まれた存在だとハルティアが言っていた。 中の脅威だけでなく外の脅威からも世界樹を守れるように、とただそれだけの為だけに。 そんなマスターだが自身の生まれた理由は知らない。 こんなの話せるわけが無い。 どうか、どうかこのまま何も知らず幸せに過ごして欲しいと願うばかりだ。 「訳が分からん…」 「大丈夫だよ。私達もずっとオウキの名前を呼んであげるから」 うんうん、と全員が頷く。 …温かい。これが家族の温かみなのだろうか? ずっと感じてきた筈なのに今の俺にはわからない。 「オウキ様、温もりがわからないのならいつだって教えてあげる」 そう言ってユイは席を立ち、俺を抱き締める。 どうやら表情に出ていたらしい。 俺自身が木っ端微塵に壊れていてもポーカーフェイスにはなれなさそうだな。 「あーっ!それは私の役目ですぅーっ!」 ササッと動いたユイを見て瀬川がぴょ〜んと某怪盗と似たダイブを俺に目掛けてやってくる。 下心さえ見えなければマシなんだけどな、と思いながらもテーブルの破壊を避けるべくユイを抱え、そして衝撃を受け流しながら瀬川を受け止めて抱える。 「ほあああ〜!!スーッ!!ハーッ!!スーッ!!ハーッ!!」 抱えると同時に俺の体に顔面を密着させて思いっきり匂いを嗅ぎ始めた。 ほんと、下心さえ見えなければな…。 そんな瀬川を許している辺り、俺は相当な甘ちゃんなのだろう。 美少女に好意を向けられれば誰だって甘くなるだろう?きっと誰だってそうだ。 「お前のやってる事はただのセクハラだと思うけどな…」 人を優しく抱き締めるようなそんな高等テクニックをこの変態ができるわけが無い。 でも同じ変態のユイはできるって謎だね。 育ちの違いかな? 「…次いつできるかわからないんだから許せよ先輩」 「だから許してるだろ?」 「ん、しゅき」 誰にも聞こえないようにボソッと呟く瀬川に答える。 ……全く。こんな野郎のどこがいいのやらねぇ? 俺より金ある奴だって外見が良い奴だって優しい奴だって大勢いるというのに。 「では私も失礼しましょうかね」 そう言ってナギサがにこやかに微笑みながら近付いて来る。 「まさか瀬川と同列に並ぶとか言わないよな?」 「珍しく察しがいいですね?」 「既に二人抱えてるんだが?」 そう言うと抱えられていた二人がササッと離れて席に戻っていった。 おいバカやめろ戻ってこーい。 「俺たちは何を見せられているんだ?www」 あまりの珍妙な光景に晃が呆れながら笑う。 「ナギサさん…」 エクレアがボソッとナギサの名を呟く。 何故ナギサがこんな行動をとっているのかなんて誰もが理解している。 世界を守る為、どんな生き物よりも先に生まれた始祖の竜。 その役目がある以上、ナギサは世界の外に出られない。 そういう制約がナギサにかけられている。 「…もう、肩を並べられないのですね」 「ああ。ナギサには何度も助けられたな…本当にありがとう」 守る事に関しては俺以上に強いから困った時はいつもナギサに頼っていた。 世界を守る為に一億年ずっと世界樹の中で共に戦ってくれたのもナギサだ。 「こちらこそありがとうございます。御主人には何度も助けて頂きましたから」 「俺の使い魔はナギサだけだよ。これからも、この先もな」 契約こそ既に切れてしまっているが、それでもナギサは俺を主人と呼んでくれる。 俺もナギサを大事な使い魔だと思っている。 「当たり前です。浮気は許しません」 「ああ。約束する」 泣きかけているナギサを抱き締め、頭を撫でる。 撫でるとナギサは静かに泣き始めた。 いつか、いつかまた俺の使い魔として契約して欲しい。 そんな事を思いながら泣き止むのを待つ。
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