物語は語り続けられる

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数分。 誰もが静かに見守っていた。 この中で唯一ナギサだけが俺の隣に立つことができなくなると知っているから。 「…すみません、取り乱しました」 泣き止んだナギサは少し恥ずかしそうに自身の髪を触る。 「もっと抱き締められても良かったんじゃね?www」 勇吾がニヤニヤしながら言う。 俺はいつまででも抱き締めていても良かったが、ナギサ自身がそれで満足するのかと言われたら確実にNOと答えるだろう。 「それで満足できるなら良かったんですけどね。たった今ストレスを感じたので少し解消にお付き合いできます?」 ニッコリと笑いながら勇吾に死刑宣告を告げる。 オイオイオイ、アイツ死んだわ。 「申し訳ございませんでした!!」 そんなナギサを見て即土下座をする辺り、コイツのプライドは晃と同じようにゴミ箱に捨ててしまっているのだろう。 かなしいね。 そんな友人を隣から見ていた颯斗が頭を抑えている。 馬鹿な友人を持つと苦労するよな、わかるよ。 「……ま、永遠の別れってワケじゃない。安定したら会いに行ける筈だしな」 現時点でナギサの寿命がどうなっているのか分からないが、多分大丈夫だろう。 名も無き神の力を間近で浴び続けていたのだから寿命という概念が無くなってる筈だ。 そもそも俺との使い魔契約の時点でそこら辺消えていたしな。 「その安定したらってのが何時なのか分かればいいんだけどね」 エクレアのジト目が痛い。 こればっかりは素質の問題だからな。 俺が上手けりゃすぐにでもコツを掴めるらしいが、逆にそうじゃなければ膨大な年月が必要らしいし。 「一秒でも早く終わらせるつもりだから許してくれ」 「当たり前。あんまりノロノロしてると死んじゃうからね」 それは随分と怖い脅迫だな。 家族が消えてしまえば今の俺はどうなるのだろうか。 確実に俺が俺で無くなるという事だけはわかる。 それこそ第二の名も無き神が生まれてもおかしくないだろうな。 擬い物なりにもアイツの因子は俺の中にあるワケだし。 「あと、何も言わずに出ていこうとしてた事はしっかりとハルティアさんから聞いてるからね?」 エクレアがニッコリと笑っているが口元だけだ。 目が全く笑っていない。 仮に何も言わずに出ていってたら確実に俺は死んでいただろう。 そんな目をしている。 「…ま、私達も今のシルエッカにどう接したらいいのか全くわからなかったからおあいこかな?」 「そうしてくれるとありがたいよ」 そうすれば殴られずに済みそうだしな…。 エクレアの拳はめちゃくちゃ重いからできれば殴られたくない。 聖剣が聖拳に形態変化するくらいには拳に特化してる元勇者の拳だからな? 一つだけ忠告しておいてやる、死ぬほど痛いぞ。 「…兄さんは変わらず兄さんのまま。何も変わっていない」 会話に混ざらず黙々と本を読んでいたカイリが口を開く。 …そう言う割にはカイリも何処かよそよそしかったような気がするけどな? 俺の疑いの視線に気付いたのか、カイリはそっぽを向く。 うんうん、やっぱそうだよな。 「何一人で納得してんだwww」 「いや、カイリは相変わらず可愛いなって」 「シスコンが相変わらずシスコンしすぎて意味不www」 なんだよ。 シスコン上等だ。 「さて、家族会議は終わりだ。みんなすまなかったな」 あまり長く話していても俺が寂しくなるだけだ。 気分が少しでも前を向いている間に終わらせなくてはいけない。 まあ、明日になれば嫌でもジジイが俺を連れていくだろうけど。 「晃」 「んあ?w」 「後のことは頼んだ」 上手く笑えているだろうか。 一応ニッコリしながら言っているつもりだが実際の所わからない。 「…おうw」 反応を見るからに微妙らしい。 俺と晃は拳を合わせ、俺だけがその場を去る。 この後は俺を抜いた皆での話し合いがある事だろう。 今後の事を決める大事な会議が。
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