3人が本棚に入れています
本棚に追加
「太陽が出てきやしたぜ、船長」
まだ薄暗い朝の水平線は、少しグレーがかった水色で、色味も味気もない。
魚達は太陽を求めて水面に集まり、そこに海鳥が群れをなす。
太陽が水平線を黄色に染めていき、瞬く間に水平線の端から端へと伸びていく。
ふと聴こえてくる唄声。
「陽射しすら全て頂くぜ!誰にも止められねぇ!俺達は自由奔放な海の支配者、その名も……いてっ!」
ゴツっと鈍い音が、軽やかに唄う少年の頭にぶつかる。
涙目で頭を押さえ、うずくまる少年。
彼の声はどこまでも響くような透き通った声だ。
こんな声じゃ、水平線にまで届いていきそうだ。
「なにするんですか!船長!」
「船長じゃない。トルホーニだ」
私の名前はトルホーニ。トリーと呼ばれたり、トールと呼ばれたりするが、対した名ではない。それに船長ではない。
ただ航海士のいない船に、予備知識程度に航海術を知る私がいたから船長扱いされている。
海賊でもなければ、船乗りでもない。単なる旅に出ていた旅人の寄せ集め。
旅は道連れとはよく言ったもので、王都に向かう私の船は、当初三人だったにも関わらず、いまや十二人を乗せた箱詰め状態。
「お前の声はよく通る。だからこそ唄う曲を選べ。海賊と間違えられて捕まったらどうする?」
「捕まるたって、この水平線。俺達しかいませんよ」
そりゃそうだ。大西洋のど真ん中。
有り得ないほどに拓けた水平線には、文字通りなにもない。
「それでもだ。余計な言葉は使うな。言葉は使うほどに軽くなる」
私の信条だった。
最初のコメントを投稿しよう!