あしおと

10/20
前へ
/20ページ
次へ
ケンの話は、高田とだいたい同じようなものだった。 「なんかスゲー寝苦しいんだよな、あの部屋。で、やっと寝つけそうになった時、ミシミシ人が歩いてるみたいな音がするんだよ。目を開けても隣で加藤がイビキかいてるだけで、誰もいない。気のせいだと思ってまた寝ようとすると、今度は誰かが俺の顔を上から覗きこんでるような気配がしてな…。一晩中、この繰り返しだ。どう考えてもオバケだぜ、ありゃ」 期せずして2人の人間が、別の日に一つの場所で同じ体験をしていた。 しかし、そこのあるじが何も言わない以上、周りが変に騒ぎ立てる訳にもいかない。 「で、お前この事、加藤には言ってねーよな?」 「言ってねーよ」 「よし、絶対に言うなよ。実は高田もお前と同じ事言ってるんだよ。アイツにも口止めしてるんだから、お前も頼むぞ」 ケンは本当に驚いたようだが、我が意を得たりの表情で言った。 「だろ?!やっぱりあの部屋、出るんだよオバケがー」 「だから言うんじゃねーぞ!」 「分かってるよ。加藤には言わねーよ。言わねーけど、あの部屋はオバケが出るんだよ!」 「お前なあー」 「ちょっと高田んチ行ってオバケトークしてくるわ。じゃあな」 コップに残っていたコーラを飲み干して、ケンは出て行った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

140人が本棚に入れています
本棚に追加