あしおと

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自慢でも何でもないが、僕には霊感というものは、まったくない。 その僕が「気味がわるい」と感じたくらいだから、この部屋の霊気は相当なものなのだろう。 僕は部屋の中を、一通り見回してみた。 テレビがあり、冷蔵庫があり、テーブルがありー。すべて僕らが運び込んだものだ。 そのなかに一つだけ、運び入れた記憶のないものを、僕は見つけた。 それは高さが70~80㎝くらいで、幅は50㎝くらいの、わりと小ぶりなタンスであった。 壁にそのタンスよりやや大きめの空洞があり、タンスはそこにスッポリと収まっていた。 「こんなモン、持ってきたっけ?」 僕は加藤に尋ねた。 「いや、それは元々そこに置かれてたものだよ。前にこの部屋に住んでた人が、ここを出る時に、中身だけ抜いて、持っていくのを忘れたものらしい」 加藤はこのアパートの大家から、忘れ物ですがよかったら使ってください、と言われ、そのまま引き継いで、このタンスを使っているのだという。 僕は何となく、このタンスが気になった。本当に、ただの忘れ物なのかー? 引き出しは4段あり、開けてみると、上2段は衣類、下2段には仕事関係の書類と趣味のエロ雑誌が入っているだけで、これといっておかしな所はない。
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