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「そうですか。その人形が、あのタンスの裏から出てきましたか…。わかりました。その人形は、私共でご両親にお送りしておきます」
僕らは席を立った。僕が人形を手渡そうとすると、大家は
「あ、そこに置いといてください」
と言って、僕らが使った湯飲みを片付け始めた。
アパートに戻る道すがら、僕はいま聞いた娘の事に思いをはせていた。さぞや無念だった事だろう。だが、決して悪い霊じゃない。
ふと気がつくと、僕の隣を歩いているのはトモだけで、ケン、加藤、高田の3人は、僕らの10mほど後ろを、何やら頷き合いながら、並んで歩いている。
僕は立ち止まり、3人が近づくのを待って、言った。
「お前らの枕元を歩き回ってたのは、娘の霊だよ。あの大家、はっきりとは言わなかったけど、その娘、もうこの世の者じゃねえんだよ、きっと…。あの部屋に忘れてきちまった人形を探して、夜な夜な歩き回ってたんだろうな…。でも加藤、もう大丈夫だ。あの人形を仏前に供えてやれば、もう出てこないよ」
だが加藤は、首を横に振った。ケンも同じ素振りだ。そして、高田が言ったー。
「違うよ、直人。いま3人で話してたんだけど、俺らの枕元歩き回ってたの、娘じゃねえよ」
「……?」
「あの人形だよ…」
そうか。娘が人形を探してたんじゃなくて、人形が娘を探してたのか。
そういえばお前ら、あの人形に一度もさわらなかったな。
あ…、あの大家も。
ー終ー
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