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「いま加藤から電話があってさぁ…」
何となく奥歯にものの詰まったような言い様である。
「さっき俺んトコにもあったよ。お前、泊まってったんだってな」
「まあ、そうなんだけどね。それでさぁ、今朝、加藤の部屋でちょっと変な事があったんだ…」
朝、加藤が起きて出勤の準備をしている時、高田も実は目が覚めていたのだという。
しかし、二日酔い気味で頭はまだガンガンしている。起きて話しをするのも面倒だし、加藤が出勤する時、一緒に家を出されるのもイヤだったので、高田は寝てるふりをしていた。
そして支度が終わり、加藤は玄関のドアを開けて出て行った。
「やっと行ったか。これでゆっくり寝られる」
そう思ったのも束の間、加藤はドアを開けてすぐに戻ってきた。そして探し物でもしているのか、ミシミシ足音をたてて、高田の枕元を歩き回っている。
「チッ、忘れ物か。うるせえな、早く行けよ」
高田は布団をかぶり、寝たふりを続けた。
そして、タバコを吸いだしたような息づかいがして、高田の寝顔を覗きこんでいる気配もする。
高田も意地になって目を開けなかった。そしてようやく枕元を離れ、ドアを開けて出て行った。
バタン、とドアの閉まる玄関に向かって、高田は
「じゃあな、行ってらっしゃい」
と声をかけて、再び眠りについた。そしてそのまま昼頃まで寝て、置いてあった合鍵で戸締まりをして、それを郵便受けに入れて帰ったという。
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