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高田はその事を、先ほどの電話で加藤に話した。
「お前、忘れ物してすぐに戻ってきただろ。俺、ホントは起きてたんだ」
しかし、加藤の返事は意外なものだった。
「え?戻ってないけど」
「嘘つけ。俺の枕元歩き回って、タバコ吸ってたじゃねーか」
「だから戻ってないって。夢でもみてたんじゃない?」
高田はこれ以上続けても無駄と思い、話題を変え、その後、少し喋って電話を切った。
「でもな、あれは夢じゃないよ。あの部屋には、間違いなく誰かがいた」
高田は、僕に断言する。
「それにな、いま思えば夜中にも、あのミシ、ミシっていう足音がして、誰かに顔を覗きこまれてるような気がしてたんだ…。直人、あの部屋、なんかおかしいぞ」
にわかには信じられない話だが、高田はこんな洒落にならない冗談を言う男ではない。
半信半疑だったが、僕は高田に言った。
「でもまあ、加藤は何も感じてないみたいだから、それでいいんじゃねーの?アイツもようやく見つけた部屋なのに、また出ていかなきゃならなくなったら、かわいそうだろう」
「まあ、そうだな」
こうして、この話は他言せず、僕と高田の間で留め置く事として、電話を切った。
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