140人が本棚に入れています
本棚に追加
9月に入って間もないある日の晩、ケンが僕の家に来た。この男、何の前触れもなく1人でフラッと現れる事がよくある。
「エッサッサでいいんじゃねーかな、出し物は」
ポテチを頬張りながら、ケンが言った。
いよいよ来月に迫ったトシの結婚式で、僕らがやる余興の話である。
『エッサッサ』とは、体育祭で男子生徒がやる、我が中学伝統の体操である。
上半身裸の男どもが「エッサ、エッサ」の掛け声のもと、拳を前に突き出したり天に突き上げたりする、体操というよりは踊りのようなものだ。
これならカネも、準備や練習に費やす時間もかからずに済む。
「そうだな。でも裸になる訳にいかねえから、上着だけ脱いで、ネクタイを鉢巻にしてやるか」
僕の言葉に、ケンは頷いて言った。
「よし、じゃあ俺はこの後、高田んトコ行って話してくる。お前は加藤に言っといて 」
「わかった」
「あ、そういえば俺、こないだ加藤んチに行ったんだけどよう」
鎌倉で趣味のサーフィンをした後、ケンは加藤の家が近いのを思い出し、寄ってみたのだという。
「引っ越し祝いでもらったっていうウィスキーがあってな。それ飲んでたら妙に酔っぱらって、そのまま寝ちまって、結局泊まったんだけどな」
ここでケンは、声をひそめた。
「そしたら夜中、オバケが出たんだよ…」
なにー?!
最初のコメントを投稿しよう!