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「ああ、着いた」
お婆さんが手すりに掴まってゆっくりと立ち上がる。
「頑張ってね。菓子職人さんに宜しく」
「はい。伝えます」
「機会があったら、またお話しましょう」
「はい」
ドアが開き、彼女が静かに降りていく。
ふと彼女の足に目がいく。
彼女が、右足をひきずっている。
あっと気づいた時にはドアが閉まっていた。
窓に張り付いて彼女の姿を追いかけるけれどスピードがどんどん上がってすぐにコンクリートの壁しか見えなくなる。
もう少し早く気づけてたら、一緒に降りてサポートしたのに。せめて改札までの階段を上がるところ位は。
いや、エスカレーターがあるか。
そう思い直して、今度は名前も聞いてないことに愕然とする。
僕は全てがお子様だ。
ちっとも回りを見ていない。
叱られるのも当然だ。
座り直し、後頭部をコツンと窓にぶつける。
色とりどりの広告が目に入る。
そういえばさっき。
僕は笑った気がする。
久しぶりに何も考えずに、ただ笑った。
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