the underground(地下鉄)

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「もたもたするな」 「客待たせるな」 「注文聞いてないのか」 「お客様のお送りだしよ」 早朝のホテルは表も裏も戦争状態。ノロノロやってると、 「邪魔だ、消えろ」 と普通に罵声が飛んで来る。 今朝。 メインダイニングのウェイターをやってる僕はとんでもないミスをやらかしてしまった。 事前に予約を受けていた客と、普通に朝食を摂りに来た客を間違えて、逆のテーブルに案内してしまった。 予約客は宗教上の理由で特別メニューになっていた。もう一方は朝からベーコンたっぷり摂りたいロックミュージシャン達。 幸い、料理を出す直前でチーフの黒服が気づき、事なきを得たんだが。 何で間違えたんだろう。 俺が有名人の到来で浮かれていたのか? 当たり前に朝食タイムの終了後、フロアマネージャーと料理長、チーフの黒服三人から小一時間の説教を食らった。 昨日と一昨日、その前も。 説教する顔触れは違えど、朝に夕にお叱りを受けている。 俺ってそんなに馬鹿なの? 何となく都会に出たくて、進路相談室の壁に張ってある求人情報をボンヤリ眺めていた中にこのホテルの募集があった。 実家から特急で3時間ほど。 東京よりは親の了解もすんなり出そうだった。 迷わずここに決めた。 給料も待遇もどうでもよかった。 卒業式を終えたその日には電車に飛び乗って、就職先のホテルに顔を出すより先に、社員寮で荷解きを始めた。
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