11月18日土曜日

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 なんだかよく分からない話の展開になったけれど、ジッとこちらをみつめる赤間部長の目はやる気で(めずらしく)輝いているし、その、ケチャップで描かれた『躍動感のあるウサギ』というものがどういった絵であるのか、ものすごく気になってしまった森田は、当然「ぜひお願いします!」と元気よく返事をしたわけであったのだが、…残念なことに、物事はそう簡単にうまく進まないのだった。  赤間部長に『躍動感のあるウサギ』の絵を描いてもらうため、わくわくしながら森田は、自分がオーダーしたオムライス定食の到着を待っていたのだけれど、ちょうどランチタイムにぶつかったせいなのか、全然それはやってこない。  そして食事がテーブルにやってくるまでの待ち時間が、長ければ長いほど、それに比例するように、みるみると赤間部長のやる気は萎れていった。  そう、自分から言いだしたくせに赤間部長は、なんか面倒くさくなってきてしまったのである。  だから、森田はとても楽しみにしていたのに、やっとオムライスが到着した頃には、赤間部長のやる気はゼロになっていて、自分の頼んだ定食をパクパク食べながら他人事みたいに「まあでも、自分の食うオムライスに、他人に絵なんか描かれたら君も嫌だろう」とか言って、適当に流してその話題を終わらせてしまったのだった。  変に食い下がって、まさか上司に「オムライスに絵を描いてください!」なんて意見することなど、当たり前だが森田にはできなかったので、結局『躍動感のあるウサギ』の絵を拝見する夢は、幻と消えた。  けっこうショックだった。  そんなわけで…あまり時間をかけてしまうと、これまでの謎について答えてやってもいいとおっしゃっていた赤間部長の気持ちが、あのときのように「なんか面倒くさくなってきたし、この話にもう飽きたから、また今度な」的に、やる気がしない方向へ流れてしまう危険性があるのだ…!  もし、そんなことになったら、期待に満ちあふれている自分のこのワクワクした気持ちの行き場がない!  赤間部長にやる気を無くされては困る!  そう考えて、森田はかなりハラハラしていたのだけれども、事態は昼食後の雑談時間も終わって、十四時も半ばになってから、やっと動き出しはじめた。  
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