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「なんですか、茜さん」
白い陶器のお皿にもられたサラダを、重厚なシルバーフォークを使ってもぐもぐ食べながら、俺は返事をした。
茜さんは、そんな俺の姿をにこやかに眺めながら、ストローでからからとアイスコーヒーの氷をかきまぜている。
「江蓮君、君さぁ…オレがいままでメールですすめてきた、小説や映像テキスト…まったく見てないだろ?」
そう言われた瞬間、俺は口のなかに入っていた、サニーレタスを吹き出しそうになった。
や、やばい、バレてる…!
茜さんは、九月のあの事件のあとから、今日に至るまで、俺の探偵スキルを上げるために役立つだろうからと、あらゆる推理小説や、探偵ドラマを、ぜひチェックしたほうがいいと言って、めまいがするほど次々と、定期的にメールでおすすめしてくれていた。
気持ちはありがたかったけれど、もともと本を読んだり集中してドラマをみたりするのが、そんなに好きでもない俺は、それが面倒くさくって、アマゾンのネタバレレビューを丸パクリするという技を使い、読んだフリ観たフリをして、毎回それっぽく、その感想を茜さんへメールで返答する、というのをくり返していたのだった。
上手くごまかせてると思っていたのに、なんでバレたんだ!?
ひょっとして、茜さん、怒っているとか?
はっ、まさか、今回のこの呼び出しは、それに対する説教の場だったんだろうか?
吹き出しそうになったサニーレタスをなんとか、ぎこちなく飲み込んでから、俺はどうしようと内心焦りながらも、とりあえずは笑みを浮かべつつ、レモンスカッシュのグラスを手にして、ゆるゆるとそれを飲んだ。
「あーあ、やっぱりそうなんだね、目がおよいでるよ江蓮君。
本当にごまかすの下手だなぁ」
そう言うと、茜さんはあきれたような、ため息をついた。
これはもうダメだと思った俺は、観念して、正直に白状することにした。
「お、怒ってます? 茜さん…」
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