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「いやー怒ってなんかいないよ、がっかりはしているけどね。
江蓮君さぁ、あまりにもごまかしが下手すぎるよ。
オレがすすめた本とかを読んでるフリをするのは別にかまわないさ、だけどあの感想文、完全にどっかから引っぱってきたコピペだろ。
文体が固すぎてバレバレすぎ、ごまかすなら、もうちょーっと上手くやって欲しいね。
己の行動を偽装して、アリバイを作るって行為は、探偵にとっての必須スキルだよ!
もっとこのあたりは、要特訓、ってカンジだね。
次回からの感想文は、もっと上手く、いかにも自分読みましたって雰囲気たっぷりになるように、しっかり書いてくれよ!」
…ああ、茜さんは、本当にあの九月の事件から、変わっていない。
自分が熱心にすすめていた本やドラマを、俺がまったくチェックしていなかったことに対してじゃなく、そのごまかしの態度がぬるいことへ腹を立てているなんて。
あいかわらず、論点がズレているなあ…。
てか、偽装やアリバイを作る行為が、探偵には必須のスキルとか言っていたけど、それってむしろ犯人側とかにとって重要なものであって、探偵には関係ないんじゃ…と思ったけれど、空気をよんで俺は黙っていた。
「えーっと、スイマセン、次から上手く偽装するようにします」
「そうそう! その意気だよ、江蓮君!」
「あの、ていうか茜さん。
まさか、それを言うために、わざわざここまで来てくれたんですか?」
俺の決意表明をきいて、満足そうに笑う茜さんに、俺はサラダの残りをすべて平らげてから、内心あきれつつ尋ねてみた。
「いやいや、それだけじゃないさ、もちろん。
本題はここからだよ、江蓮君」
テーブルごしに、こちらへむかって少し体をのり出しながら、そう言う茜さんの瞳が、一瞬きらりと光ったような気がして、俺は、ものすごく嫌な予感がした。
でもいつだって、後悔は先に立たない。
今回もまたそうだった。
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