プロローグ

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   次、二つめ。  これは単純に、法を犯すという悪だ。  わかりやすい例えは、まさに交通ルールだな。  赤信号になっても、それを無視して車を走らせたり、制限を気にせずスピードを出す、そんなことをしたら罰金ものだ、下手すりゃ捕まることだってある。  ルール違反という悪には、明確な禁止事項と、それを犯した際の罰がはっきりと決められている。  こういうことをしたら、こんな目にあうんですよと、きちっと細かく決められて、万人の目の前に掲げられている。  この悪には、基本的に感情がない。  ただ、決まりがあるだけだ。  とても身近で、子供にも分かりやすい、悪の種類だな。  そして最後の、悪。    この悪は、説明するのが、とても難しい。  これは、もっとも穢らわしい悪だ。  人間が、人間だからこそ犯す、人間のみが行使することのできる悪だ。  その悪は、自らの姿を偽装する。  その悪は、ときに美しくさえ見える。  だから、それが悪だと、見破ることは難しいかもしれない。  だけどな、江蓮、お前にならきっと分かる。    どれほど正しいことを言っているように聞こえても、どれほどやさしく微笑んでいたとしても、それを目の前にしたとき、お前は胸がざわつくような違和感を覚えるはずだ。  その悪は、周囲の人々に知らず知らずのうちに浸食し、彼らの魂を穢していく。  それだけの力を持っている。  だから、江蓮。  もし、そんな悪が、お前の目の前に現れたとしたらー…」  犬彦さんは、ひどく真剣な顔をして、俺に言った。  「すぐにその場を離れて、逃げろ」  
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