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「そう、網代の墓参りだったんだよ。
烏羽玉島の崖から転落死した網代なんだけど、一応今まではね、行方不明者扱いにされてたんだよ、遺体が発見されてなかったからね。
だけど、その網代の遺体の一部が、こないだ偶然発見されたんだよ。
まあ海流の中でもみくちゃにされて、損傷が著しくてねぇ、そんなだからもちろん見た目からじゃ網代の一部だって分からなかったんだけど、DNA鑑定で本人だって特定されたんだ。
で、網代はやっと遺族の元へ戻ってきて、そして無事に納骨された。
その連絡を受けて、俺は網代の墓参りへ行ってきたってわけさ。
あいつは、すんごい酒が強い奴でねぇ、大の日本酒好きだったから、この寒空の下、墓の前に供えてやったよ。
そんで、お前の残した研究を、お前との連名で完成させるところまで、あと少し、やっとここまでこぎつけることができたって、報告した。
まあ、蔵人君に崖から突き落とされて死ぬことになったのは、いくら研究のためとはいえ『仮面』を黙ってパクろうとして、しくじった網代の自業自得なんだけどさ、これであいつも草葉の陰から喜んでいるだろうさ。
網代に、いい報告ができたのも、これはすべて江蓮君のおかげだからね。
君にはあらためて直接お礼が言いたかったんだよ。
本当にありがとう、江蓮君」
「えっ、いや、そんな、俺は…」
だって、俺は…。
まっすぐに俺をみつめる、ぼろぼろな姿に変わった茜さんの目は、心の底からの感謝の気持ちがあふれていた。
「俺は…」
そうだ、俺は…亡くなった網代さんの、その友情に報いようとする茜さんを応援したくて、この事件の推理を始めたんだった…。
…ありがとう…って、言ってもらえた…。
反省しなくちゃいけない部分ももちろんあるけれど、くそったれ探偵江蓮も、少しは誰かの役に立てたのかもしれない。
そう考えたら、それまで重かった俺の心が、少しだけ軽くなったような気がした。
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