エピローグ

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 茜さん曰く、驟雨さんは『目覚めた』らしい。  烏羽玉島に生まれた自分が、当たり前のように受け入れてた因襲を、客観的に眺めることができるようになった驟雨さんは、その結果、呪いの原因『自己成就的予言』を真に理解し、自らにかかっていた『長岡家の長男の死の呪い』に打ち勝ち、それを解き破って、一個人の人間としての自分に目覚めたんだ、…とか、なんとか。  それを自慢げに語っている茜さんを見ながら俺は、なんかよく分かんないけど、それって…つまり驟雨さんが、茜さんに洗脳されたってこと? なんて、ちらっと思っちゃったけど、空気を読んで黙っていた。  とにかく驟雨さんは今、烏羽玉島を出て、一人暮らしをする準備で忙しいそうだ。  あのときの茜さんの勧め通りに、東京に行こうかなって思ってるんだって。  すっかり雰囲気が明るくなった驟雨さんは、茜さんから見ると、新生活にうきうきしながら、楽しそうに荷造りとかしてるみたいだ。  「まあ、いいことだよね。  彼は真面目君だからさぁ、今まで『長岡家の長男』としてのアイデンティティばっか優先していたわけだし、ここらで自分中心に生きるのも悪くない。  それにシュウ君の家族は、そういう彼の真面目さに依存気味なところあったし、みんな寂しがっているけど、彼の家族にとってもいいことなんじゃないかなぁ。  あの引きこもりしてた凍雨君も部屋から出てきて、ちゃんとやってるよ。  最後にオレが見たときの凍雨君は、やんちゃな雰囲気だった前よりも、ちょっと落ち着いてしっかりしていたし。  シュウ君がいなくなったら、凍雨君が次期当主の可能性濃厚だからね、しっかりしなきゃって自覚が出たんじゃないのー?  甘えられる相手を失ったとき、子供は大きく成長するってもんさ」  「あ、あの…」  その口ぶりからして、どうやら茜さんは、俺が烏羽玉島を去って以降も、何度か長岡家を訪れているみたいだ。  俺は、どきどきする気持ちを抑えながら、一番気になる質問をしてみた。  「その、あれから…き、樹雨くんに会ったりとか、しましたか?」  
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