エピローグ

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   「んん、樹雨君? どうかなぁ、長岡家に行ったときに、そこらへんを歩いていたような気もするし、見てないような気もするし…まあ彼も元気にやってるんじゃないの?  ほら樹雨君ってシャイだからさ、オレとはあんまり話してくれないし、ぜーんぜん接点ないんだよねぇ、てゆーか江蓮君のほうが、彼と個人的な付き合いあるんじゃないの?」  「あはは…はあ、」  そんなに期待はしてなかったけど、やっぱり樹雨くんのことは、茜さんにはよく分からないみたいだ。  当然だけど、あれから樹雨くんからは何の連絡もないし、俺からも連絡していない。  …嫌いな奴から連絡がきても、樹雨くんも困るだけだろうし、仮に俺からラインなり何なりで連絡をしたとして、あからさまに無視をされたりしたら、わかっていてもやっぱり傷つく…。  そもそも連絡ができたとして、俺は、樹雨くんに何を伝えられるというんだ。  うん、樹雨くんが元気にしているなら、それでいいんだ、…それで。  きっと樹雨くんは、今も変わらず、あの海を一望することができる松林の先の崖の上で、絵を描いているんだろう。  まるで目の前で見ていることのように、俺にはその光景を想像することができた。  薄暗い松林を通り抜け、開けた道の先、太陽の光に照らされた小さな広場の岩の上には、潮風に黒髪をゆらされながら、真剣な表情でスケッチブックに鉛筆を走らせる、樹雨くんの姿がある。  想像のなかの樹雨くんの存在感や気配というものは、いつだって俺のすぐ近くにあった。  そんな、絵を描いている樹雨くんの横に立って、彼の描いている絵を見せてもらうことは、…もう現実の俺にはできないけれど。  なんだか、そんなことを考えたら、じわじわと目頭が熱くなってきそうだったので、気持ちを切り替えるためにも、俺はかるく息を吐いてから、別の話題を茜さんに向けた。  「結局…『仮面の亡霊』…御霊さまって、一体何だったんでしょうか?  御霊さまという存在は、本当にあの島にいたのか…茜さんは、御霊さまのことを信じていますか?」  
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