エピローグ

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 背中を丸めながら、ずずっとコーヒーをすすっていた茜さんは、俺の質問を聞くと、いつもよりは元気がないながらも、あの講義モードになって、すらすらと答えてくれた。  「御霊さまは、もちろん烏羽玉島にいるよ、千年前からね。  御霊さまの存在を、信じるか、信じないか、…それは非常に瑣末な選択肢だねぇ。  オレはさぁ、そもそも『信じる』って言葉が好きじゃないね、そこには旧時代的な響きがするからさ。  『信じれば』、それは確実に100%存在すると言い切れるのか?  『信じなければ』、それは絶対的に0%存在しないのか?  『信じる』という言葉ほど、近視眼的で、傲慢な言葉もそうそうないとオレは思うね。  めんどくさい女とかもさー、「私はあなたのこと信じてたのに!」とか言って、一方的にぶんなぐってくるのとかいるけど、『信じて』いる自分は絶対的に正しくて、それが裏切られたときは被害者である、みたいな一種の免罪符になることあるでしょー?  『信じる』って言葉は、チートカードみたいな使い方をされることが多いからねぇ。  主観の自己主張ばかりが激しくて、客観性をまったく持たないものほど、眉唾なものはないよ。  ずっと前に話したと思うけど、オレは、概念があるなら、それは現実に存在するものだと捉えている。  烏羽玉島住民が、御霊さまと共に生き続けていく以上、それは確かに存在するのさ」  うーん、なんか難しい話だなぁ…ていうか、茜さん…「あなたのこと信じてたのに!」って言われて、女の人に殴られたことがあるんですか? どういうシチュエーションなんだよ、一体何があった…そこが気になって、茜さんのいい話(?)が全然頭の中に入ってこないんですけど…。  「ええっと、じゃあ誰かがいるって思えば、存在するってことなんですね。  神様って、そういうものなのかなぁ?」  「江蓮君、神とは何か、神とは存在し得るのか…その話は、オレの本来の専売特許、専門中の専門だけど、それについて君に正しく理解してもらうためには、ここから最低でも三時間はかかると思うけど…話す?」  「いえ、結構です、またにしてください(きっぱり)」  興味のある話題だけども、今日は早めにうちに帰って、犬彦さんの誕生日のお祝いの準備がしたい。(サプライズだから、犬彦さんのいないときにこっそり進めないと)  三時間の講義コースとか、精神的にもムリです…。
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