10月11日水曜日

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 この日、赤間犬彦が率いる、営業部の精鋭メンバー三人は、なぜか経理部フロア内にある給湯室に集まっていた。  せまい給湯室に、大人が四人も集まっているので、そこは満員電車の中のようにギュウギュウだった、なかなかに息苦しい。  そんななかで、犬彦たち四人は、こそこそと息をひそめている。  まるで誰かにみつかることを警戒しているみたいに。  しかし、そんな警戒心がオーバーに感じるくらいに、経理部内は静かで、社員がたった一人いるだけだった。  シーンと静かな午後の経理部にいるのは、一人だけ。  たった一人の経理部女性社員は、自分のデスクで、悠々と午後のティータイムを楽しんでいる。  彼女が堪能している高級ケーキは、キルフェボンのフルーツタルト、それは犬彦が口止め料として、差し上げたものである。  (どんなスイーツを用意すれば、女性社員に喜んでもらえるのか、そのチョイスに間違いがないのは、グルメな義弟を持ったおかげだと、つくづく犬彦は思う)  一度、静かに耳を澄ませたあと、安全を確認した犬彦が口を開く。  「時間が惜しい、まずは諸君らのアリバイを確認しておきたい」  静かな声で犬彦がそう告げると、三人は真剣な表情で犬彦を見ながら、こくりとうなずく。  「まずは永多くん、頼む」  犬彦の視線は、すぐそばで狭そうに立っている、背の高い男性の方に向く。  彼は、営業第一課のリーダーで、犬彦の右腕、犬彦不在時の営業部責任者だった。  「はい、オレは一服ついでに煙草を買いにコンビニへ行くと、そう言ってあります」  永多の答えを聞いて、犬彦はかるくうなずくと、次に別の人物へ視線をやる。  「では五月女くん、君はどうだ」  犬彦の視線は、正面で体を縮めるようにして立っている、小柄な女性へ向く。  彼女は、営業第二課のリーダーで、犬彦の兼任秘書だった。  「私はお手洗いへ、お化粧を直しにいくと、そう伝えてあります」  犬彦はまた微かにうなずくと、最後の人物へと視線を向ける。  「沖くんはどうだ」  すみっこの方に追いやられるように、肩をすぼめて立っている、眼鏡をかけた男性を見る。  彼は、営業第三課のリーダーで、犬彦の後方サポートをまかされている。  「はい、僕はソフマップへファミ通を買いに行ってくると言ってあります」  
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