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確かに、犬彦が率いる営業部は優秀だった。
成績は右肩上がりだし、予算を落としたこともない、自分のチームは全員が頑張ってくれている、スキルもモチベーションも高い、ここまで優れたチームは余所にもないだろう。
その自負は、犬彦自身も持っている。
「だからね、本店でも期待されている彼のことを、ぜひとも優秀なチームを抱える赤間くんの下で鍛えてやって欲しいって、そういう意向なんだよね…」
「しかし、優秀だとは言っても、規模というものが違います」
手元にある、彼の経歴書を眺めながら、眉間にシワを寄せつつ犬彦は言い返した。
それはまさに、黄金に輝くようなキラキラの経歴書だ。
一流大学を卒業し、上場企業である本店の花形部署に配属されている…そんなエリートコースまっしぐらな彼のキラキラ経歴書が、この話の胡散臭さを犬彦に告げる。
本店からのエリートが、うちの会社に出向してくる…この歪さを例えるならば、こういうことだ。
犬彦を、野球チームの監督であると例えてみよう。
犬彦監督の率いる野球チームのメンバーは優秀ぞろいで、常に連勝を重ね、負けなしで有名だった、そんなとき、ぜひ自分もこの素晴らしい野球チームに入れてくださいと、ひとりの選手が現れる。
その選手とは、アメリカのメジャーリーグから飛行機に乗ってやってきた、次期のエース候補だった…そんな感じだ。
どんなに犬彦監督のチームが優秀だったとしても、そんな有名どころから選手が移動してくるなんていうのは、おかしな話なのだ。
だって、犬彦たちがやっているのは、草野球だったのだから…。
似たようなことをやっていても、規模も、その意味合いも、まったく違う。
犬彦がジッとこちらをみつめたまま、まったく引かない様子を見た専務は、困ったようにため息を吐くと、ぽつりとこう漏らした。
「…だってしょうがないじゃないか、赤間くんは、有名人なんだから…」
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