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そんなわけで、俺は犬彦さんに、あのカフェについてきてもらおうと、誘いかけたことがある。
ある日、うちで犬彦さんとくつろいでいるとき、いまがチャンスだと悟った俺は、ふと何でもないことを思い出したようなふりをして、こんなふうに切りだした。
「あのー犬彦さん、駅前に新しくお店ができたの、知ってます?」
「店? 何の食いもの屋だ」
さすがと言うべきか、犬彦さんは、俺が食べ物の話をしようとしていることを、一発で見抜いた。
「えーっと、俺もくわしくは知らないんですけど、見たかんじですね、サンドイッチとかハンバーガーとか、ステーキとかもあるみたいで…」
「ああ、あれか」
「! あの店、知っているんですか、犬彦さん!」
「ああ見たぞ、駅に行く途中でオープン記念のチラシを配っていたな。
あそこに行きたいのか江蓮、それなら連れてってやろう」
「やった! ありがとうございますっ」
「さっそく今夜の予約を取っておこう、連絡先調べないとな」
「え? 予約??」
「駅前のビルにできた、多国籍レストランのことを言っているんだろう?
俺も久しぶりに美味いワインが飲みたい」
「!!!」
犬彦さんは、俺が行きたがっている店を、同じく駅の周辺に最近できた、高級レストランだと勘違いしていた。
それは、おしゃれカフェ以上に(金額的な面から言っても)高校生には敷居が高すぎて、俺がチェックすらしていなかった店だった。
「あ……」
犬彦さん、ちがうんです。
俺がいっしょに行ってほしいって、お願いしようとしていたのは、カリフォルニア風カフェで…。
と、いう言葉は、唾とともにゴクンと胃袋へ飲み込まれていた。
「行きましょう! 犬彦さん!」
…ええ、ほんともう、その夜のディナーは最高でしたよ。
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