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「冗談じゃない、このガキの顔を見るのは初めてだ。
昨夜、俺が受付をしたときには遭遇していない、きっと前半の方で羊野くんが相手をしたんだろうが…まあ、そんなことはどうでもいい、これぐらいの年代のガキっていうのは、大人の男を、訳もなくブン殴りたくなるものだからな」
「…僕は十代の頃に、そんな危険な衝動に駆られたことは一度もないのですが…。
…って、ああ! 部長! まさかっ、まさかこの子が『仮面の亡霊』の変装をして、藍晶さんを殺してしまったんじゃ…!
今だって、こんなところに彼がいるのはおかしいですよ!
いくら島民とはいっても、霧宮邸のこんな庭外れに、こんな時間、こんな亡霊の格好をして潜んでいるだなんて!
しかも僕たちがここにいることは誰も知らない、煙草を吸うために部長が茂みへ足を踏み入れたのも、予測がつかない偶然です、それなのにまるで待ち構えていたみたいに、部長の後を追って、バットで襲いかかってきて…あっ! これは…まさかの無差別殺傷事件!?
殺す相手は誰でもよくて、たまたま藍晶さんが襲われて殺された…!?
なんて非道いことを! …通報! 部長! 早く警察を呼ばないと!」
閃いてしまった! と、ばかりに森田が、失神しているこの若者こそが、藍晶氏殺害の犯人ではないかと色めき立って大騒ぎを始めたが、赤間部長はただ静かに、倒れている男を見下ろしているばかりだった。
「亡くなった藍晶さんが手に持っていたという『白い着物の切れ端』は、襲われている最中に抵抗して、ちぎり取ったものだったんだ! 状況証拠というやつですね!」
興奮しながら、男から脱がした『白い着物』をぎゅーっと両手で握りしめつつ森田は、熱くなって叫んだ。
すごいぞ、これで一連の騒動はすべて解決だ、藍晶さんの無念を晴らすことができたんだ!
そう思って森田は、誇らしげに瞳をキラキラと輝かせていたのだが、ここでやっと、黙ったままだった赤間部長が口を開いた。
「…いや、まだそうとは言い切れない。
森田くん、君が持っているその着物をよく見てみるといい。
どこか破れたような箇所はあるのか?
君が言うとおりに、藍晶氏が抵抗時にちぎり取ったものであるなら、そうだな…袖の辺りにでも損傷があると想定されるが…しかし、そんなもの無いんじゃないか?」
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