序章

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遮断機が上がり人々が行き交う。 通勤、通学、買い物、ただの散歩、此処を渡って行く目的は様々だ。 そしてまた遮断機は下りる。 何気ない日常の風景だ。 下らない日常の風景とも言える。 だが良く見れば、遮断機の根元に、意味深な小さな古びた地蔵が在る。その事には、誰も気付かない様だ。 そんな中で、皆んなとはちょっぴり違うスパイシーなピリリとほの辛い? いや、ほの甘い? ほの苦い? うーん、つまりなんとも理解し難い風景を見ている少年が1人居た。 バイクに跨った彼の左目が、壊れたカメラを通し見ているモノ。 それはーー。 遮断機が下りた瞬間、サラリーマンがそれを飛び越え、踏み切り内に侵入して来た電車に飛び込む。 その後、電車は何事も無かった様に通過し、遮断機が上がるとまた人々は何事も無かった様に行き交う。 サラリーマンの姿は無い。 そして、しばらくしてまた遮断機が下りると、先程と同じ様にサラリーマンが電車に飛び込む。 こんな、摩訶不思議な風景だった。 此処は、地元では有名な心霊スポットで、今を去る事20年程前に、サラリーマンが借金苦で電車に飛び込んだ。実際の話だ。当時の新聞もある。それから、電車に飛び込んでは消えるサラリーマンの幽霊が出る様になった。地元の住民の手により、供養の為の小さな地蔵が踏み切りの横に置かれ、前より目撃件数は減ったが、いまだに目撃談がちらほら忘れた頃に出て来る。 小1時間、その繰り返しを少年はすでに4回も見ている。 踏切の脇で、ずっとバイクにまたがりカメラのファインダーを覗いている少年。 一見するとおかしな(不審な)光景だが、彼に語りかける(注意する)人はいない。 それは彼の見た目が影響している。 が、見た目の事は、此処では置いておくーー。 でも、ただ見ている訳ではないーー。 人に見える回数が減っただけで、電車が来る度に、あのサラリーマンは毎回線路に飛び込んでいるんだ。 誰もその事には気付かない。 まるで、真昼の月だ。 気付く人にしか見えないのだ。 通行人達には見えていないのは勿論だが、幽霊にも通行人達は見えていないように見える。 なるほど……。 ーー少年は冷静にそれを考察していたのだ。 彼の名前は、波久礼銀太(はぐれぎんた)。 どうして、銀太の左目にだけこの様な物が見える様になったのか? それは、今を遡る事約1年前になるーー。
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