第1章【喪失】

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その悲しみや苦しみは、何者かの実体験――。 恐らくは、この双剣を手にした者達の体験。 (これは何だ――!??) 多くの切実なる思いと、決意が僕の心の内側を通り抜けた。 ――フェイト・ブレード―― そのビジョンの中で、双剣はそう呼ばれていた。 黒き剣はフェイト・ブレード【臨影(りんえい)】 白き剣はフェイト・ブレード【輝陽(きよう)】 二つの剣はその力を持って全人類が滅亡の運命を、先進文明崩壊という運命に変えた。 そして、この剣に適合した所有者は、その時々で運命の変革を成す。 避けられぬ運命の障壁を打ち破るべく、その思いを体現した運命変革の剣。 黒き剣はフェイト・ブレード【臨影(りんえい)】と――。 大切な者を守り幸せに導きたいとの願いを、具現化する運命変革の剣。 白き剣はフェイト・ブレード【輝陽(きよう)】 その二つの剣の担い手の思いによって……。 (運命変革の剣……。) 僕は、幾度もイメージが流れ込む中、ただそれだけを認識する。 その最後のイメージの中に、父のものがあった。 そのイメージとは、あの運命の日に父はひたすらに、僕を含めた全員を救わんと時間転移を繰り返し、幾つもの可能性を選択し続けていたというイメージである。 幾度となく繰り返し、擦り切れかかった精神を引き摺り、父は家族全員が助かる道を模索し続けた。 だが、幾度となく可能性を選択し続けるも誰か一人だけが、助かる状況に辿り着くのが精一杯だったのである。 そして、自らの精神力の限界を迎えた父は、苦渋の決断した。 僕のみを救う道の選択である。 その理由は至って単純だった。 母やミツハは、一時的に生き残りはしても、その時の傷が原因で最終的には、必ず命を落とすのだが…。 僕の場合は半身不随や、肉体の一部を失う等の運命はあっても必ず、その先には生存の運命があったからである。 故に父は決断した。 僕が五体満足で、あの難を逃れる運命を選択しようと――。 そうして父は母やミツハの生存の運命では無く、僕が無事たる運命を選択したのである。 いや……実際、それしか道が無かったのだろう。 僕には、その事が痛い程に良く分かった。 何故なら、そのイメージからは父の苦悩や悔しさが自身の体験の如く、ダイレクトに伝わってきたからである。 父の精神力は限界を迎えていた。 その中で父は一番、マシな選択をしたのである。
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