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だが……それ故に、父は自らを責め続けながら生きなければならなくなった。
僕はその時、初めて父の苦悩を知ったのである。
父が背負ってきたモノ……。
自らを責めながら生きる人生を――。
(これが父が背負ってきたモノ……。)
そして、その直後、別のイメージが僕の意識内に浮かび上がる。
それは具現器たる黒きフェイト・ブレードを通じて、僕の意識内に生じさせた光景だった。
広場の中心にて何者かと戦う父の姿。
街の所々は焼け崩れ、死傷者の山が築かれる。
人々は泣き叫び、亜人達に殺されてゆく……。
そんな中、父は広場中央の安らぎの像の前にて、剣を構える。
その剣先を向けるは、眼鏡をかけた黒き外套を纏いし青年――。
そして意外にも、劣勢にあるのは父の方であった。
細身の剣で父の剣撃を受け流す青年――。
正直、信じられない光景であった。
何故なら、父の能力【スキル】はあらゆる軌跡を瞬時に把握するもの。
つまり、これからどう攻撃し、どう回避するのかを瞬時に把握できるのである。
まして父の使用する剣、捕捉系上位具現器たる無影【ムエイ】は望む場所全てに、斬撃を放つ機能を有しているのだから。
だが……現実は違った。
優位である筈の父の斬撃が、その青年には掠りもせず空を切るばかり。
逆に父は青年の突きにより、浅いとはいえ手傷を負い続けている。
何とか攻撃を凌げてはいるが、それも所詮は時間の問題。
そう思った直後、鋭き一撃が父の胸に突き刺さる。
決着はたったの一撃により、決した。
僕は声も無く、そのイメージを見据える。
崩れ落ちる父――。
薄ら笑いを浮かべる眼鏡の青年。
その場には僕の姿は無く、ただ僕はそれを知るに至っただけ……。
このフェイト・ブレードがあれば防げる事態なのではなかろうか……?。
不意に僕の中に、そんな思いが過る。
だが…死に行く父は心の内で、 そんな僕の思いを否定していた。
フェイト・ブレードを所持してすら自分では、この青年には勝てない――。
イメージの中の父は、その事を知っていた。
――何故なら、この青年にも運命を・・・――。
(僕は認めない、こんな無慈悲な運命など!)
僕は即座に、そんな理不尽を否定する。
父程の強者が、負ける事が信じられなかったからだ。
この状況に至るまで後、二時間弱――。
それは急げば間に合う可能性のある筈だ。
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