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ただ、幼き僕にも一つだけ理解出来る事がある。
僕は大切な者を失わない為の力を欲し、父は僕のその思いに応えてくれた。
まるで最初から、僕がこうする事を知っていたかの様に――。
そして、この日から父は剣術の師として、また団長として僕に接し僕もまた父を剣の師であり、団長として接するようになった。
何故、そう徹したのかといえば、大切な何かを失わない為には、甘さの一切を排除する必要性があったからである。
そうして僕は、自らを律する生き方に徹し齢十四歳にして、第七部隊長を任される程の力を身に付けた。
だが――。
部隊長の任に就いてより、約一年。
復興祭を前日に控え、団長たる父からある任を下される。
いや……それは任と言うよりは頼みであった。
父を父として接しなくなってから、数年。
そんな家族として過ごした時を持たぬ中で、父は不自然にも父として僕に言う。
「カザギ第七部隊長……。
いや、ルイン……お前に頼みたい事がある。」
「どうしたんですかカザギ団長、改まって?」
「今まで、師として守衛師団の長として接してきたが、今日は父としてお前個人に頼みがある。
この花を母さんとミツハの墓に供えてやってはくれないか?」
「分かりました。
今日はリドウ・カザギの息子ルイン・カザギとして、その頼みを承ります父さん。」
「そうか、有り難う。
気をつけて行けよルイン。」
「分かりました、行ってきます父さん。」
その日の父は、何時もと様子が違っていたのだが……。
僕は突然どうしたんだろ?――と疑問に思いながらも父の頼みを素直に聞き入れ、母とミツハの墓所へと向かう事にした。
母とミツハの墓所は、高所にあり常人が簡単に登れる場所では無い。
故に毎年、二人の命日には母とミツハの為に父が、花を手向けるのが通例だったのである。
そんな所に墓を作った理由は、墓を野党などに荒らされたくなかったからだ。
平然と人の墓を荒らすような輩が蔓延りし、この御時世にあって、悪意のある者達の手の届かない所で、母とミツハの静かに眠らせてあげたい――。
その気持ちは僕には痛いほど、良く分かる。
それは多くを失った僕と父にとって、か細くも……切なる願い。
少なくとも僕は、そう思っていた。
実際に母とミツハの墓を、目にするまでは――。
(父は、こんな所を行き来していたのか!?)
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