第1章【喪失】

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僕は二人の墓所へと通じる崖を、見据えながら思わず息を飲む。 それは明らかに常人が、どうこう出来るレベルのものではなかったからだ。 落ちたら間違いなく死ぬ。 ましてや常人じゃなくても、この急な崖を登るのは至難の技である。 だがしかし、それは何時かは訪れるべき瞬間だった。 そう……何時かは、この崖を登り二人の墓を訪れねばならない。 ただ、それが今だっただけの事だ――。 (しかし、これだけ急な崖となると、スキル【能力】の使用は必須か――。) 僕は意識を全身に巡らせる。 そして全身に強靭なる肉体をイメージした。 ――【ストレングス・ボディ】―― その直後、全身に力が駆け巡る。 スキルは誰もが有する古代技術の恩恵。 それは特殊な遺伝伝達器官により、自然的エネルギーを意図する形に変換する技術である。 ただ、その性質には個人差はあるが……。 僕は、慎重かつ軽やかに崖を登り始めた。 (いけるか?) この急な崖と、僕の強化系統のスキルとの相性は悪く無いらしい。 特にアクシデントが無ければ、問題無く登れる筈――。 僕は十分程、高い崖を登り上を見上げる。 肉体を強化した事もあってか、登る速度は想像以上に順調だった。 気が付けば、頂上まで残り半分程の距離――。 (よし、順調だな…。) 予想より早く移動出来ている事に、僕は安堵する。 だが、その直後だった。 不意に、頭上から石が無数に落ちてくる。 足場の悪い状況での、不幸なるアクシデントの発生。 回避は不可能。 (ならば――!) 僕は即座に背中の剣を抜き、斬撃速度を加速させた。 それと同時、無数の石が僕の頭部に直撃するより早く、僕の高速の斬撃が石を切り刻む。 だが、それだけでは不十分だった。 僕は、ゆっくりと流れるように感じる時間の中で、剣の腹で無数の石の破片を弾き飛ばす。 (ふう……何とかなったな……。) 不意に生じた落石をやり過ごし、僕は再び頂上を目指し登り続ける。 そして、それより数十分後、僕は漸く山頂に辿り着く。 「ここが、山頂か……。」 母とミツハが亡くなってから父が毎年、訪れし場所――。 二人の大切な人が眠る土地…。 (意外と広いな…。) それなりに歩き回れる広さの土地に、花が咲き乱れる場所…。 その中に寄り添うように、存在する二つの墓石。 「久しぶりだね、母さん……ミツハ…。」
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