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僕は二人の墓所へと通じる崖を、見据えながら思わず息を飲む。
それは明らかに常人が、どうこう出来るレベルのものではなかったからだ。
落ちたら間違いなく死ぬ。
ましてや常人じゃなくても、この急な崖を登るのは至難の技である。
だがしかし、それは何時かは訪れるべき瞬間だった。
そう……何時かは、この崖を登り二人の墓を訪れねばならない。
ただ、それが今だっただけの事だ――。
(しかし、これだけ急な崖となると、スキル【能力】の使用は必須か――。)
僕は意識を全身に巡らせる。
そして全身に強靭なる肉体をイメージした。
――【ストレングス・ボディ】――
その直後、全身に力が駆け巡る。
スキルは誰もが有する古代技術の恩恵。
それは特殊な遺伝伝達器官により、自然的エネルギーを意図する形に変換する技術である。
ただ、その性質には個人差はあるが……。
僕は、慎重かつ軽やかに崖を登り始めた。
(いけるか?)
この急な崖と、僕の強化系統のスキルとの相性は悪く無いらしい。
特にアクシデントが無ければ、問題無く登れる筈――。
僕は十分程、高い崖を登り上を見上げる。
肉体を強化した事もあってか、登る速度は想像以上に順調だった。
気が付けば、頂上まで残り半分程の距離――。
(よし、順調だな…。)
予想より早く移動出来ている事に、僕は安堵する。
だが、その直後だった。
不意に、頭上から石が無数に落ちてくる。
足場の悪い状況での、不幸なるアクシデントの発生。
回避は不可能。
(ならば――!)
僕は即座に背中の剣を抜き、斬撃速度を加速させた。
それと同時、無数の石が僕の頭部に直撃するより早く、僕の高速の斬撃が石を切り刻む。
だが、それだけでは不十分だった。
僕は、ゆっくりと流れるように感じる時間の中で、剣の腹で無数の石の破片を弾き飛ばす。
(ふう……何とかなったな……。)
不意に生じた落石をやり過ごし、僕は再び頂上を目指し登り続ける。
そして、それより数十分後、僕は漸く山頂に辿り着く。
「ここが、山頂か……。」
母とミツハが亡くなってから父が毎年、訪れし場所――。
二人の大切な人が眠る土地…。
(意外と広いな…。)
それなりに歩き回れる広さの土地に、花が咲き乱れる場所…。
その中に寄り添うように、存在する二つの墓石。
「久しぶりだね、母さん……ミツハ…。」
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