第1章【喪失】

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僕は懐かしさと、悲しさを噛み締めながら墓石へと向かう。 そして、持ってきた花を手向けようとした時――。 不意に過る――。 父はどの様な思いで毎年、二人の墓に花を手向けに来ていたのだろうかと……。 あえて、移動困難な場所に墓を作ったのも二人を守れなかった自分自身を、罰するが故なのかも知れない。 ただ一つ、はっきりしている事は、この場所は懐かしさよりも深い悲しみと悔いの方が、強く思い起こされるという事だ。 割り切れるモノなど、一つもない……。 無慈悲な現実を思い起こされるだけ…。 あの頃の僕にもっと力があれば、こうはならなかったかも知れない――。 そんな思いだけが、脳裏を過る。 だが、それはもう過ぎ去りし日の事。 今更、取り戻しのきくものではない…。 残るのは、後悔や悔いのみ……。 (今更か…。 あの時、どう足掻い所で力を得られる訳もなく、過去を変えられる術もないのにな……。) それは恐らく、父の内にも似たような後悔があるのであろう。 僕は、そんな事を思いながら二人の墓に花を添えた。 だが、その直後……僕は不意にある異質なる状況に気付く。 「光……?」 二人の墓の下より漏れ出す白と黒の光……。 それは先程までは間違いなく、存在していなかったモノだ。 (一体、何がどうなっているんだ?) 僕は、その光の正体を確かめるべく二人の墓石の下を確認する。 土で覆われた部分をどかし、僕は石蓋を開けた。 そして、僕は二人の骨壺とは別に白と黒の鞘に収納された双剣を目にする。 それはかつて、父が手にしていた二本の刀。 母とミツハが、命を落とした日まで父が使いし二本の剣だった。 (光源はこれか――?) 僕は、その双剣を見詰める。 それは余りにも色々な事が有りすぎて、何時から父がこの双剣を手にしなくなっていたのかすら、気付かなかった代物。 だが、僕は双剣が放つ光が気になりながらも、その双剣を手に取る事を、少し躊躇していた。 何故なら、これは恐らく父が母とミツハに手向けたものだからである。 だから、それを手に取る事が良い事の様に思えなかったのだ。 だが、そんな思いを抱きながらも僕は、その双剣を手にする。 まるで、その双剣に吸い寄せられるかの如く――。 そして、その瞬間……幾つもビジョンが僕の頭を駆け巡った。 幾つもの苦しみと、悲しみに彩られた映像。
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