3人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は懐かしさと、悲しさを噛み締めながら墓石へと向かう。
そして、持ってきた花を手向けようとした時――。
不意に過る――。
父はどの様な思いで毎年、二人の墓に花を手向けに来ていたのだろうかと……。
あえて、移動困難な場所に墓を作ったのも二人を守れなかった自分自身を、罰するが故なのかも知れない。
ただ一つ、はっきりしている事は、この場所は懐かしさよりも深い悲しみと悔いの方が、強く思い起こされるという事だ。
割り切れるモノなど、一つもない……。
無慈悲な現実を思い起こされるだけ…。
あの頃の僕にもっと力があれば、こうはならなかったかも知れない――。
そんな思いだけが、脳裏を過る。
だが、それはもう過ぎ去りし日の事。
今更、取り戻しのきくものではない…。
残るのは、後悔や悔いのみ……。
(今更か…。
あの時、どう足掻い所で力を得られる訳もなく、過去を変えられる術もないのにな……。)
それは恐らく、父の内にも似たような後悔があるのであろう。
僕は、そんな事を思いながら二人の墓に花を添えた。
だが、その直後……僕は不意にある異質なる状況に気付く。
「光……?」
二人の墓の下より漏れ出す白と黒の光……。
それは先程までは間違いなく、存在していなかったモノだ。
(一体、何がどうなっているんだ?)
僕は、その光の正体を確かめるべく二人の墓石の下を確認する。
土で覆われた部分をどかし、僕は石蓋を開けた。
そして、僕は二人の骨壺とは別に白と黒の鞘に収納された双剣を目にする。
それはかつて、父が手にしていた二本の刀。
母とミツハが、命を落とした日まで父が使いし二本の剣だった。
(光源はこれか――?)
僕は、その双剣を見詰める。
それは余りにも色々な事が有りすぎて、何時から父がこの双剣を手にしなくなっていたのかすら、気付かなかった代物。
だが、僕は双剣が放つ光が気になりながらも、その双剣を手に取る事を、少し躊躇していた。
何故なら、これは恐らく父が母とミツハに手向けたものだからである。
だから、それを手に取る事が良い事の様に思えなかったのだ。
だが、そんな思いを抱きながらも僕は、その双剣を手にする。
まるで、その双剣に吸い寄せられるかの如く――。
そして、その瞬間……幾つもビジョンが僕の頭を駆け巡った。
幾つもの苦しみと、悲しみに彩られた映像。
最初のコメントを投稿しよう!