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「美紗ちゃーん。真琴のお兄さんにちょっと話聞いてたから、美紗ちゃんの魂胆はだいたい分かってるけど、酷くない? 会社の人たちに俺の事、『美紗ちゃんの浮気相手』に見せかけたでしょ? 別に美紗ちゃんの会社に知り合いいないからいいけどさー、全然知らない人間に俺まで悪者扱いされるのもちょっとねー」
私に腕を組まれながら…というか引っ張られながら歩く日下さんが、隣で口を尖らせた。
「すみませんでした。本当にごめんなさい。私の思い付きの寸劇に付き合ってくれてありがとうございました。日下さんがいてくれたおかげで、嘘に説得力が出せました。…なんでウチの会社にいたんですか?」
しばらく歩き、会社からだいぶ離れた為、しっかりつかんでいた日下さんの腕を解放する。
日下さんから手を放した途端に、急に恥ずかしさが湧き出てきた。
私は、肉食女子でもなければ、自分から告白をした事もないようなチキンな人間だ。
恥ずかしがり屋という可愛い類の人間ではなく、振られて辛い思いをしたくないという、ただただ逃げ腰の人間。
日下さんにおんぶをしてもらった時は、体調不良と逃げたい一心でそんな事を感じる余裕もなかったけれど、少し冷静な時に勇太くんではない男性に触れるのは、緊張と照れと、もう感じる必要もない罪悪感を伴った。
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