漂う嫌悪、彷徨う感情。

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   「い…今、お茶を用意しますね」  不穏な空気を感じ取ったオカンが、泣くのをやめてキッチンに向かった。  そんなオカンに買ってきた手土産を渡し、美紗に寄り添い、テーブルを挟んで真琴と向かい合う形でソファーに座る。  小刻みに震える美紗の肩が、俺の二の腕に当たった。  美紗を初めて実家に連れて来た、あの日の光景が脳裏を過る。  「美紗、やっぱり…「あの、真琴ちゃん。新婚旅行の事…本当にいいの?」  美紗の様子が心配になって、美紗に『出直そう』と言いかけた時、美紗の震える唇が動いた。  「お兄ちゃんに約束しちゃったしね。行きたいところを好きに選べばいいよ」  遠慮がちに話す美紗に、居丈高な態度を取る真琴。  真琴は、自分が言った事を撤回するのもプライドが許さないらしい。  隣に座ったオトンに『何なんだ、その態度は』と叱られても、真琴はその振る舞いを変えようとしない。  「なんでそんな約束をしたの? 中学時代のイジメの代償?」  それでも美紗は、真琴の口から反省の言葉を引き出そうとしていた。
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