漂う嫌悪、彷徨う感情。

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   「なんだその、クソしょうもない理由は」  怒りで今度は俺の手が震え出す。  「お兄ちゃんには分からないだろうね。下に誰もいない怖さは。お兄ちゃんの下には常に出来の悪い私がいたから、そんな気持ちになった事がないのよ。  誰かの上にいるって事が、誰かが下にいるって事が、安心になるのよ。自分より下の存在がいれば、馬鹿にされる事もないし、イジメの標的になる事もない。  家の中で、ずっとお兄ちゃんの下で不当に扱われてたのに、学校でまで下にいようなんて思えなかった」  日本語のはずなのに、全く理解が出来ない真琴の主張。  「不当? はぁ!? オトンもオカンもちゃんと平等に俺たちを育ててくれただろうが。初めは塾だって同じ数習わせてくれてたし。途中で真琴は逃げ出したけど。被害妄想が甚だしいんだよ、真琴」  俺には真琴が、卑劣な自分を正当化しようとしているようにしか見えない。
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