漂う嫌悪、彷徨う感情。

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   「そうね。確かにお兄ちゃんと同じ様に育てられたわ。私とお兄ちゃんは違うのに。  お兄ちゃんを基準にお兄ちゃんのレベルのものを、私もさせられてたわ。  2人に同じ事をさせるのは平等であっても正当じゃないわよ。  お兄ちゃん、私の事を『馬鹿だ馬鹿だと思ってた』って言ってたよね? そうだよ。私はお兄ちゃんみたいに頭が良くないんだよ。そんな私にお兄ちゃんと同じ事をさせて、同じ様に出来るわけがないじゃない!!   お兄ちゃんのレベルについて行けなくて、落ちこぼれれば呆れられて、諦められて。やる気の出し方さえ分からなくなった人間に、それでも『反骨精神を持って頑張れよ』って言うのは無理があるのよ!!」  真琴が、積もり積もった恨みを吐き出した。  真琴の言う事に、心当たりはある。  何をするにも俺より時間のかかっていた真琴に、『お兄ちゃんもしていた事だから』と言ってオトンもオカンも俺も、真琴のスピードに合わせようともせずに『平等』を押し付けていた。  俺たちの『平等』が真琴にとっての『不公平』になるなんて、思いもしなかったから。  真琴の性格を歪めてしまったのは、真琴を虐めに走らせてしまったのは、俺たち家族だったんだ。  真琴が頑なに謝罪する事を拒む様になったり、家族に悉く反抗していたのは、真琴なりの抗議だったのかもしれない。
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