漂う嫌悪、彷徨う感情。

82/86

974人が本棚に入れています
本棚に追加
/321ページ
 ---------週が明けて、月曜日。  出社直後に美紗と2人で部長のデスクに向かう。  「おはようございます、部長。あの、部長。私と木原さん、予定通り結婚します」  社内で1番に報告したかったのは、俺の味方をしてくれ、応援してくれた部長だった。  「おはよう、佐藤くん。そっかー。良かった良かったー!! って俺、同じ人間から同じ人と結婚する報告を2回受けたの、人生で初めてだわ。再婚報告は前に1回あったけど」  『わははは』と豪快に笑いながら、『良かったな』と、もみじのような手で俺の二の腕を揺する部長。  「お騒がせして申し訳ありませんでした」  そんな部長に気まずそうに頭を下げる美紗。  「まぁ、色々あるよね。幸せにしてもらうんだよ、木原さん。これからもこの会社で働いてくれるんだよね? 引き続きよろしくね」  身長が美紗と同じくらいの部長は、美紗と視線を合わせて笑いかけた。  「はい!! これからもご指導よろしくお願いします」  美紗が、少し涙目になりながら部長に元気よく返事をした。  「その、『色々』なんですけど…。朝会の時にちょっとお時間を頂けないかと…」  これから大嘘を繰り出さなければならない俺は、目に涙を溜めた美紗の頭を撫でてあげる余裕もなく、部長に話を切り出す。
/321ページ

最初のコメントを投稿しよう!

974人が本棚に入れています
本棚に追加