漂う嫌悪、彷徨う感情。

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 「あぁ。みんなにも2回目の結婚報告をしたいわけね。手短にね。何せ、2回目だから」  部長が『2』を強調させながら、俺の顔の前に人差し指と中指を突き立てた。  「はーい。あ、部長。部長がめっさ嫌ってた、『哲学好きの名言吐きたがり』な奴なんですけど、一概にいけ好かない奴ばっかりじゃないですよ。私がお話した人間は、めちゃめちゃ良い奴だったので」  そんな部長に、和馬くんの誤解を解く。何となく、部長の中で和馬くんのイメージが悪いままなのが嫌だったから。  「えー。そうなの? じゃあ、謝っておいてね。会社のハゲた小人が陳謝してたって」  『申し訳なーい』とオデコ…と思われる部分をパチーンと叩きながら明るく謝る部長。  「いえ、本人には部長の悪口は伝えてませんので。営業なので、利益にならない余計な事は言いません」  というか、和馬くんと俺は、そんな話をするほど仲が良いわけでもない。  「さすが営業部期待の星だねー。そっかー」  部長に『期待の星』と言われるのは嬉しいが、部長にとっての期待の星は部下全員だったりする。  「何の話?」  部長と俺の会話の内容が分からない美紗は、首を傾げながら俺を見上げた。  「昼休みに話すよ。今、それどころじゃない。昨日の練習の成果をこれから発揮しなきゃだから」  たいした話じゃないから、そんな話は後回し。  余計な話をすると、昨日覚えた大嘘の台詞を忘れてしまいそうだ。  「頑張ってね、勇太くん」  美紗が俺の手を握った。  「任せとけ」  余裕はないが、俺は必ず美紗の盾になる。
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