36人が本棚に入れています
本棚に追加
お酒が足りないと赤ん坊の様に泣くお義兄ちゃんと2人、海に面した丘を下る。
お酒の買い足しか、酔いを醒ます散歩か、目的は分からない。
「落ちるよー」
お義兄ちゃんは防波堤に登り、少しフラフラしながら歩く。けれど、頼りない笑顔は崩さなかった。
「あ、もうすぐ、俺と母さんが溺れた岩が見えるよー」
やっほーっとお義兄ちゃんは手を振った。
お義兄ちゃんのお母さんは溺れ、お義兄ちゃんは救助された、場所。
もし、お義兄ちゃんのお母さんが助かってたら、私もお義兄ちゃんも出会わなかった。傷つかなかった。
「俺ねー、人魚に合った事があるの」
「前にも聞いたよ」
「うん。人魚にね、助けて貰ったんだ。……綺麗だった」
そう言うと、防波堤の上を立ち止まり、満月を見上げた。
「海の中、淡く金色に光る髪。透き通る白い肌。俺を抱きしめてくれた、温もり」
全て、偽物で、
全て、本当で、
全てが夢の中だった。
「あんなに彼女を探したのに、あんなに人魚を忘れないように、俺は絵本作家になったのに」
心は満たされない。
心は不安だらけ。
「あ、あの人だ」
酔っ払いが感傷に浸ってる時、あの岩に今朝の人を見つけた。
相変わらず、寒そうなワンピースで、胡座を掻いて岩に座っていた。
「ねぇ、お義兄ちゃん」
「ん~?」
満月を見上げたままのお義兄ちゃんに聞いた。
「あの人、知り合い?」
最初のコメントを投稿しよう!