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岩の上で、靡く髪を押さえながら、外人さんは海を見つめていた。
「客室に落ちてたイヤリングの持ち主?」
「……なんで!?」
私がポケットからイヤリングを出すと、お義兄ちゃんはびっくりして堤防から落ちそうになる。
よろけたお義兄ちゃんと2人、私は海辺に倒れ込んだ。
……お義兄ちゃんは泣いていた。
震えながら、弱々しく。
「お前、人魚って信じる?」
「信じない」
「即答かよ」
お義兄ちゃんは、バサッと砂に埋め込むように倒れ込んで、力なく笑った。
「俺を助けてくれた。ずっと会いたかった。会ったら好きになった。
――すげぇ好きになった」
砂を握りしめ、笑って情けない姿で。
「分からなく、なった。怖くなった。彼女の本心が分からない。
何も教えてくれなくて不安だった。 どうして俺に会いに来てくれた? どうして俺のそばに居てくれる? 君は、本当に―――」
笑って誤魔化して自分の話はしない彼女。
ずっと会いたくて、会いたくて、何冊も人魚の話を書いていたのに、
現実の彼女は、生きてて笑ってて、理想と離れていった。
悩んでいたら、突然、彼女は姿を消した。それが、答えだったんだ。
「永遠に俺を好きでいるはず、ない。人の気持ちは簡単に変わるんだ」
そう、静かに笑う。
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