真冬の人魚姫。

3/15
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
5年前に、私のママとお義兄ちゃんのパパは再婚した。 その時には既に18歳だったお義兄ちゃんは、絵本作家していた。同居の話もでたけど、この海の見える家から離れたくないから、と拒んでいた。 私は別に、新しいパパは優しいし、新しい家で1人部屋を貰えて嬉しかったので、お義兄ちゃんと一緒に暮らせなくても寂しくなかった。 ただ、夏には泊まりに来て、よく一緒に海で遊んだ。 とっても優しくて、私は大好きだった。 「お義兄ちゃん、風邪ひくよ?」 ベランダの窓を開けたまま、ワインのビンをテーブルに何本か転がしている。顔色は変わっていないけど、お酒臭い。 私は溜め息をつきつつも、毛布を被せてあげた。 ベランダの窓を閉める時に、夜の海を見て動きを止めた。 静かな波が寄せては返し、浜辺には微かにビルの灯りが映し出されていた。真冬の海は寂しくて綺麗だ。 「あのな、兄ちゃんな、」 呂律も回らないくせに、お義兄ちゃんは、むにゃむにゃと気持ち良さそうに言った。 「人魚に会った事があるんだよ」 そう言って、眠ってしまった。 「人、魚に………」 むにゃむにゃ寝言まで『人魚』とはね。さすがの私も苦笑してしまった。 何故なら、お義兄ちゃんの描く絵本は、人魚ばっかりだった、から。 この、コテージのような小さな家には、人魚の絵本がいっぱいだったから。 「全く! 現実はそんな綺麗じゃないんだからね!」   夢ばっかり見ているお義兄ちゃんが、少しばかり羨ましかった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!