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「あら、私だって悩んでいるわよ」
フフン、と済まし髪を掻きあげる。
長い爪も、細い指も、掻きあげる仕草も、色気を感じさせた。
「――私も困ってます。岩に座られて。目の前で死なれたら迷惑じゃないですか」
なるべく、冷静に淡々と言ってやった。外人さんはしばらく目をパチパチさせていたが、やがて爆笑しだした。
「おちびチャン、面白いわね。私好きだわ」
「――私は嫌いですけど」
滅茶苦茶、子ども扱いされて腹が立った。
「ごめん、ごめん。あと数日したら止めるからさぁ」
煙草を貝殻のケースにしまい込んで、外人さんは笑った。
「数日? 本当ですね?」
「本当に本当! 雪が降り止んだら帰る予定なの。そしたら、もう此処には来ないし。私、此処で雪が止むのを待ってるのよ」
雪が止むのを、か。
そんなに強い雪じゃないから、飛行機も電車も止まってないのにな。
「あんまりにも、儚い雪だから見とれてしまってね。あの人みたいな、繊細な雪」
クスクスと笑った。
「ねぇ、おちびチャン、浜辺で『これ』落ちてなかった?」
そう言って、外人さんは髪をかきあげた。
外人の耳元には、真珠のイヤリングがしてある。
「片方、落ちちゃってね。見つけたら教えて」
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