第1章

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ファミレスを出る頃には夜の九時近くになっていた。お互いに目元を赤くしながら横浜中央病院へと歩く。 私よりほんの少し背の高い彼は、少しだけ私より前を歩く。 病院の前に到着すると彼は「もう思い残すことはないかなぁ」と、冗談ぽく笑って見せた。 「そういうの、笑えないから止めてよ」 私も少し寂しげに微笑みながら言う。お互いが向き合うような状態になったとき、そっと彼の唇が私の唇に触れる。それは乾いていて少し固い感触だった。仄かに病院のにおいがする。 「それじゃあな。面会には来ないでくれよ」 彼はそう言うと私の返事を待つこともなくそそくさと病院の中へと入っていった。 その日の夜はどうやって帰ったか覚えていない。地下鉄に乗った事すら思い出せない。気がついたら自宅のベッドの上で横になっていた。 未だに現実が受け入れられない。彼と再会したことも、彼が病で余命が僅かだと言うことも。心の中で何かが分裂してしまったような、そんな気持ちだ。けれども、あのキスは本物で彼の気持ちは変わらないことが解った。それだけで良かったんじゃないだろうか。 このまま会えないで、いつか亡くなっていたことをしって後悔するよりも……ずっとマシだ。 マシなのかな――。 本当にそれでいいのだろうか。せめてもう一度会いたい。私は彼にまだ好きだと伝えていないのだから。 そう決心した私は翌日の講義を仮病で休んだ。入院中暇かもしれない。そう思った私は彼の好きそうな雑誌をコンビニで買い、地下鉄に乗って横浜中央病院へとやってきた。 昨夜の静かに立っている病院と異なり、かなり大きな病院のせいか人の往来や救急車の出入りが激しい。 白いビルのような病院の中に入り、一階の受付カウンターが見えてきたところで私は思い出した。 そう言えば彼の病室を聞いてなかった――。 どうしたらいいだろうか。受付に言えば確認してくれるかもしれない。そう思い気を取り直して受け付けへと進む。 女性の事務員のような制服を着た人は「おはようございます」と、笑顔で迎え入れてくれた。 「あの、面会をしたいのですが……」 「面会ですね、そうしましたらこちらの用紙にお名前と住所、連絡先、誰の面会かご記入下さい」
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