第1章

3/13
前へ
/13ページ
次へ
扉を開けると広い空間の中は白を基調とした空間に茶色い木製で作られたキッチンカウンターや机が並んでいる。四角に切り取ったようなキッチンカウンターを通りすぎると黒い高級そうなソファ席四組があってそこから事務所へと入ることが出来る。 事務所に入るとオーナーの黒崎さんが事務机の椅子に座りながら考え込むように俯き加減で視線を机に音いている。 日頃の穏やかだけれど活発な雰囲気をどんよりとさせながら悲しみに暮れているのが解ってしまう。 とうとう知ってしまったのだろうか――。 少し涙ぐんだ三十過ぎの店長は私がドアを開けて入ってくるのを見ると慌てた様子で笑顔を作る。その表情は少し無理をしていて、申し訳ない気持ちが私の胸の中に沸いてきてしまう。 「おはよう! 霧島ちゃん。今日はシックな感じだね」 そう言われて自分の服装を事務所のテーブル越しにある姿見で見てみる。 意識はしていなかったのだけれど、黒いロングスカートに白いブラウスと確かにシックでシンプルな服装を今日は選んでいたのだなぁ。と私は思った。 「朝起きたときボウッとしながら選んでいたんで、なんかお葬式に行く感じになっちゃいましたね」 しまった――。ただでさえ好きな歌手が亡くなったのだ。そこで葬式だなんて言葉を出すなんて迂闊。 ハッと開いた口を手で塞ぐ。店長は苦笑いえを浮かべて短い黒髪を掻く。 「あれから随分経ったもんね」 「そんなに長く羊とお話のファンだったんですか。ってそうですね、私が高校の時からかかってましたもんね」 「あ、ああ。そうそう。あの頃は霧島ちゃんはロングヘアーだったのに今はショートボブになってて面接に来たとき気づかなかったよ」 「えっ覚えていたんですか?」 高校の頃からお客さんで来ていたことを覚えていたのに少し驚きながらも、私は覚えられていたことに少しの恥ずかしさと嬉しさが入り交じる。 「このお店に十代の子が来ることは殆ど無かったからねぇ。ほらウチって隠れ家的な感じでやってるからさ、だから印象に残っていたんだって話さなかったっけ?」 「今初めて聞きましたよ。なんか恥ずかしいなぁ」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加