第20章 閉じた袋をこじ開けて

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彼はちょっと真剣な目つきでわたしを真っ直ぐに見た。 「子どもの方は親はそれでもわかってくれるだろ、大したことないって思ってても。向こうはちょっとしたことでも知りたいし何もかも心配なんだよ、本当は。煩がられるかもと思って連絡できないでいるんだから…。これからは何かと小まめに連絡入れろよ。お前がしなかったら俺が頭越しにしちゃうからな」 「あーまぁ。…それも案外喜ばれるかも」 昨夜の二人のしみじみとした打ち明け話を思い出す。母もアルコールが入ってたせいとはいえやけに心を許してる様子だったし。わたしなんかより気安くいろいろ話せるんじゃないかな、実際。 わたしの呑気な相槌に彼は目を三角にして言い募った。 「何阿呆なこと言ってんだ、お前。お母さんはお前の声が聞きたいんだよ。どこの馬の骨ともわからないよその男の声なんか聞いてもしょうがないだろ。…全く、何にもわかっちゃいないんだから。これじゃお母さんも苦労するよな。なんか、気の毒になってきたよ俺」 「えー。…何でですか」 わたしは首を捻る。てか、何で向こう側に寄り添ってんの?母が過去を反省すれば何もかもチャラ?それもちょっとどうかと思うけど。 だって、マジですごいぴりぴりした母親だったんだよ!結構訳もわからず息潜めて暮らしてたんだから。 「大人になった目で見れば母も大変だったんだな、と思うけどさ。あんな苛々不機嫌な人と毎日二人きりで過ごす気持ちなんてわからないでしょ。子どもだから訳わからないし、なんか自分が悪いのかなって。子どもに手がかからなくなって生活が楽になって、余裕が出来たら反省すればいいの?それで済まされるのもそれはそれでさ…」 何故か今になって怒りがふつふつと沸いてきた。なんか、感情の起伏がおかしい、自分ながら。 不意に彼が大きな手のひらでわたしの頭を包むように撫でた。 「うん、悪い。俺は大人の目でつい物事を見ちゃうからさ。全体が見通せない子どもの立場からしたらやっぱりたまんないよな。…でも、こういうこと改めて言葉にしてみる機会も今までなかったろ?きっと怒りをちゃんと外に出してなかったんじゃないかな。お前の中にずっとそのまま、押し込まれて放っとかれたままなんだよ。…いろいろ口に出してみるときっと見方も変わってくよ。全部なんでも言葉にして聞かせろとは言わないけど。そろそろそうやって怒りを消化できるようになってるんじゃないかな。
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