第19章 モノクロの世界が色づく

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「…ヨリちゃん」 裕香さんの呼びかけに振り向く。何故かその声に含まれた戸惑いのようなためらいのような色に気づくと同時に彼女と目が合った。裕香さんはちょっと気圧されたように口ごもった。 「何だろ。…ちょっと、雰囲気変わった、かな?何かあった、もしかして彼と?」 「えぇ?…何でですか、急に」 ちょっとどき、としつつ笑って誤魔化す。机を回って側に来た彼女に何でもない風に平然と答えてみせた。 「別に、色恋以外にも変化なんかいろいろあるでしょ。仕事だってプライベートだって…。様子変わったら何でも彼氏絡みってことないと思うけど。なんでそう決めつけるんですか」 彼女は一応周囲を気にしてか声を抑えた。 「うん、あのね。なんか、色っぽくなった、ヨリ。しっとり落ち着いて余裕が出てるよ。…そっち関係充実してるのが見てありあり」 わたしは喉の奥でぐぅ、と変な音を立てた。…そですか。 「ヘンな顔してる、わたし?やだな、周りから見てて見るからにエロい顔してたりしたら…」 さすがに彼女は吹き出した。 「そんなんじゃないよ。なんていうか、大人になったって感じ。満ち足りてるからもう何も必要ない、って顔してる。…どうしたの、それにしても?元々両思いの彼がいて婚約済みなんだよね?その上そんなに幸せそうな表情浮かべちゃってさ。…何があるとそんな風になるわけ?」 わたしは一瞬迷った。でも、どうせそのうちわかることだし、彼女にも。 それにこの人ならきっと理解してくれる。わたしにも止む無い、どうしようもない事情があったんだってこと。 さっと周囲に目線を走らせ、声の届く範囲に聴いてる人間がいないことを確認してから思いきって打ち明ける。 「あの、裕香さん。…わたし、結婚することになりました、結局。今週末実家に挨拶に行く予定で…、入籍はもう、そのあとすぐ。式は身内だけで追い追いですけど」 「ええ?…急だねそれもまた」 彼女は思いきりのけぞった。声大きい。何人かちらほらこっちに目を向けてるのがわかりわたしは閉口して彼女を落ち着かせようと手で必死に制する。 「ちょっとまだ…、そんなに大っぴらには。別に披露宴する訳でもないし、会社には事後報告だけのつもりだから…。あんまり仕事には関係のないことですし、私的な」 「ってことは、妊娠したとかじゃないの?出産なら休まなきゃいけないから仕事は関係あるじゃん。
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