第19章 モノクロの世界が色づく

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でも、できちゃった訳でもないのにずいぶん急展開だね?つい先月、まだ彼は新入社員で仕事慣れてないから結婚なんか全然って言ってたのに。なんか心境の変化でもあったの?」 事態が飲み込め始めると一転、ぐいぐいと身を乗り出して押してくる。わたしは肩を縮め、とにかく細かいことはお昼のときにでも、とその場は必死に彼女を宥めた。 「…あの実は。ちょっと、言いにくいんですけど」 気軽なランチが楽しめるイタリアンのお店で狭いテーブルを挟み、近隣の勤め人で騒つく空気に紛れてわたしは思いきって口を開いた。訳もなく紙製のナプキンをぐにぐに、と握りしめつつ。 「裕香さんなら責めたりしないでただそのまま聞いてくれるかな、と。…前に言ってたあの彼じゃないんです。別の人なの。わたしが結婚するひと」 「ぶ」 彼女は焦ったように水の入ったグラスを口許から離した。危うく噴きそうになったらしい。 「え、ぇと。…いろいろ事情があるんだろうね、そりゃ。…歳下の彼とは別れたってこと?結婚する相手の人とは付き合い始めたばかり?」 「それが。…そういう関係になったのはやっと最近なんですけど。すごく長い付き合いの人で。…ええと、あの。前の彼の従兄弟なんです。歳は三十一歳」 この度彼の正確な年齢を初めて知る運びとなった。余談だけど。 わたしは俯いてぼそぼそと打ち明ける。 「その人はずっとわたしのことを付かず離れず見守ってくれていて。支えてくれてた人なんですけど。それはわかってたし、いつも頼りきっていて。…でも、わたしのことを異性として見てくれてるって本当に全く思ってなくて。彼もずっとそれを…、隠してた、って。でも、お互いもうそれも無理が…」 彼女は静かに真面目な顔で聞いてくれている。それに力を得て更に口を開けて付け足した。 「幸い、歳下の彼の方もちょうど社会に出て世界が広がったところで。最近はそんなに会えてもいなかったし以前ほどわたしなしじゃいられない感じでもなくなったので。…まぁさすがに祝福はしてくれませんでしたけど。なんか、そうなる気はしてたとは言われました」 電話越しに話があるんだけど、会って話した方がいいよねと切り出したらしばらく黙りこくって、いや、もう電話で聞いた方がましかもってぶっきら棒に言われてしまった。顔見て聞きたい話じゃないと思う。夜里さんの顔見たら多分、承服できない。受け入れられなくなるに決まってるからって。
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