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箸でつまんだモヤシを見つめながら、恋煩いしている少女のようにため息を吐く。
その作戦には乗らない。
そうやって悲しい顔してこっちの良心を抉ってくる作戦に、この一カ月散々騙されてきたんだから、もう乗らない。
捨てられたウサギの様な表情にほだされ、ずるずる半同棲みたいに天宮さんのマンションに帰っていたら、ある日いきなり私の住んでいたアパートの荷物を引き払ってこっちに運び込まれたんだから、もう騙されない。
「は、はやく行きましょう。今日はおじいちゃんとお兄ちゃんとビル内のレストランで食事でしたよね」
「そうです。その時に、指輪も取りに行きましょうね」
優しく笑う癖に、なんだろう。
蛇に睨まれた蛙のごとく私は、小さく息を飲む。
「そのままホテルに閉じ込められる前に、覚悟を決めていてくださいね」
じいっと見られる。
なんだか恥ずかしくなって、銀色のフレームの眼鏡を奪うと、切れ長の瞳が目を細めた。
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