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眼鏡をかけているストイックな天宮さんは偽物だ。
きっと眼鏡を外した瞬間に見える、獲物を追い詰めて食べちゃいそうな素の天宮さんの方が本物なんだ。
「そんなに耳まで真っ赤にするなら、奪わないでください」
「だって、眼鏡してない方が私の顔見えにくいんじゃないかなって」
恥ずかしくて台所へ逃げようとした私の腕を掴む。
「残念ながら、見えなくなる分、顔を近づけなきゃ行けなくなります」
「きゃっ」
引き寄せられて、天宮さんの足の上に乗ってしまう。
かああっと耳まで熱くなった私の腰を更に引き寄せる。
「観念してくださいね。――俺の腕の中に閉じ込めますよ」
ずるい。
そんな甘い言葉で私を騙して。
それにころりと騙される私もきっと単純なんだろうけど。
触れられると、名前を呼ばれると、どうしても胸が熱くなる。
止められなくなるんだもの。
唇を指がなぞる。その感触にさえ甘く痺れて、身体から力が抜けて行く。
今日も私は、彼の腕の中に囚われてしまうのだった。
Fin
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