第一章 密室の切り裂きジャック

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 ◆  翌日、俺たちは本格的にボーカル探しを始めた。  まず同学年の教室に出向き、バンドに興味のあるヤツがいないかアンケートを取ったが、誰もいなかった。まぁいきなり言われても、名乗り出るヤツはいないよな。これは作戦失敗だった。  次に歌の上手いヤツをリサーチして交渉する作戦に切り替えた。一人だけ他薦があったので、放課後にそいつと交渉してみようと思う。 「もしもその人にフラれたらどうする?」  五限が終わった二年一組の教室で、俺の前の席に座る大輔が尋ねた。 「三年生と一年生にも聞いてみるよ。最悪、文化祭限定の助っ人ってことで、バンド加入のハードルを下げてみてもいいかもしれない」 「下級生にお友達いるから、私も聞いてみるね」  いつの間にか右隣に立っていた静香がそう言った。 「ありがとう。いや助かるよ。大輔と違って静香は優秀だな」  ギャグのつもりで言ったのだが、大輔は露骨に顔をしかめた。 「むっ……あのなぁ。お前が音痴だから静香に迷惑かけてるんだろうが。貴志が歌えれば、それで解決だったんだぞ」 「うるせぇ。どうでもいいけど、お前またドラム壊しただろ。これで二回目だぞ。加減しろよ、この馬鹿力のゴリラーが」 「ゴリラーってなんだよ! ドラマーみたいに言うな!」 「ほら、すぐ怒る。さすが類人猿。バナナ食うか、ゴリ輔」 「いらんわ! というか、誰がゴリ輔だ! お前本当ムカつく! 決めた、殴る! ゴリラーパンチかましてやる!」 「け、喧嘩はだめだよぅ」  俺と大輔が睨み合う中、静香がおろおろしている。お、その顔すごく可愛い。喧嘩している夫婦の間に挟まれて困っている愛犬みたいな顔だ。  静香の困り顔をもっと見たいという衝動に駆られていると、 「こらこら。静香ちゃんを困らせちゃだめー」  クラスメイトの小日向美由(こひなたみゆ)が、俺の密かな楽しみを邪魔してきた。その隣には呆れたような顔をして、小日向綾(こひなたあや)が立っている。
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