20人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
翌日、俺たちは本格的にボーカル探しを始めた。
まず同学年の教室に出向き、バンドに興味のあるヤツがいないかアンケートを取ったが、誰もいなかった。まぁいきなり言われても、名乗り出るヤツはいないよな。これは作戦失敗だった。
次に歌の上手いヤツをリサーチして交渉する作戦に切り替えた。一人だけ他薦があったので、放課後にそいつと交渉してみようと思う。
「もしもその人にフラれたらどうする?」
五限が終わった二年一組の教室で、俺の前の席に座る大輔が尋ねた。
「三年生と一年生にも聞いてみるよ。最悪、文化祭限定の助っ人ってことで、バンド加入のハードルを下げてみてもいいかもしれない」
「下級生にお友達いるから、私も聞いてみるね」
いつの間にか右隣に立っていた静香がそう言った。
「ありがとう。いや助かるよ。大輔と違って静香は優秀だな」
ギャグのつもりで言ったのだが、大輔は露骨に顔をしかめた。
「むっ……あのなぁ。お前が音痴だから静香に迷惑かけてるんだろうが。貴志が歌えれば、それで解決だったんだぞ」
「うるせぇ。どうでもいいけど、お前またドラム壊しただろ。これで二回目だぞ。加減しろよ、この馬鹿力のゴリラーが」
「ゴリラーってなんだよ! ドラマーみたいに言うな!」
「ほら、すぐ怒る。さすが類人猿。バナナ食うか、ゴリ輔」
「いらんわ! というか、誰がゴリ輔だ! お前本当ムカつく! 決めた、殴る! ゴリラーパンチかましてやる!」
「け、喧嘩はだめだよぅ」
俺と大輔が睨み合う中、静香がおろおろしている。お、その顔すごく可愛い。喧嘩している夫婦の間に挟まれて困っている愛犬みたいな顔だ。
静香の困り顔をもっと見たいという衝動に駆られていると、
「こらこら。静香ちゃんを困らせちゃだめー」
クラスメイトの小日向美由(こひなたみゆ)が、俺の密かな楽しみを邪魔してきた。その隣には呆れたような顔をして、小日向綾(こひなたあや)が立っている。
最初のコメントを投稿しよう!