1. 扉

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

1. 扉

「それでは始めて下さい」 「お願いします」  三段リーグ最終局の開始。これに勝てば、プロ棋士になれる大事な対局。先手は僕。盤が揺れている、いや、揺れているのは僕なのか。  チェスクロックが時を刻む。持ち時間が失われてゆく。指せ、指すんだ。駄目だ、指が震える。  僕は扇子を握り、眼を閉じる。あの日、鬼太と交換した扇子。これは彼の扇子だ。僕の扇子は、今、彼の手にある。  思い出せ、あの日、寄席で見た、彼の高座を。そして、二人の約束を。  大きく、息を吸い、そして、吐く。盤の揺れは止まっている。もう、大丈夫だ。  僕は、初手を指した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!