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「あの子、いつもこんな遅くまで一人で留守番してるんですか?」
中村さんは少しいいにくそうに答えた。
「いや、いつもってことでもないねんけどな。たまにな。まあいろいろあって、あの子のお母さん、今ちょっと仕事増やしてはるんやわ。昼間は空調設備会社の事務所で働いて、夜はすぐ近くの運送会社で荷物の仕分けの仕事してはる。なんかあったらすぐに帰ってこれるようにっていうてな。なんやったらうちが預かったろかいうてんねんけど、ほんまに困った時だけお願いしますいうて、断りはるんやわ。そない遠慮せんでええのに」
中村さんが奥に向かって声をかけた。
「ハルちゃーん、メールしといたかー」
ハルトが二つ折りの携帯電話を操作しながら玄関に出てきた。
「しましたー」
後ろから直哉がついてくる。中村さんが嬉しそうに笑った。
「いやっ、もう一人イケメン登場かいな。あんた、ケンちゃんとよう一緒におる子やん。ハルちゃん送ってくれたらしいなあ。ありがとう」
直哉は前髪を横に流すと、柔らかな笑顔で挨拶をした。
「こんばんは。南澤がいつもお世話になってます。彼がインフルエンザの時はご迷惑をおかけしました。あの時はお店、大変だったんじゃないですか」
中村さんは目をまん丸にして大きく口を開けた。
「いやっ、そんなことあれへんよ!全然だいじょうぶやったわ。それより何この子、うちの婿に欲しいわ!娘おらんけどっ!」
俺の肩をバンと叩いてガハハと大笑いをする。俺が痛がってよろめいていると、中村さんが続けた。
「まあええわ、あとはうちが見とくし、あんたらもう帰り。仕事終わりで疲れてるんとちゃうん?ご苦労さんやったなー」
直哉はスニーカーを履くと、深々とお辞儀をした。
「いいえ、ありがとうございます。じゃあ、ハルトくんのこと、よろしくお願いします」
「きぬがわさん!」
ハルトが直哉のトレーナーの袖をつかんだ。直哉はハルトの前にしゃがむと、ハルトの手をとった。
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